×

気になるキーワードを入力してください

SNSで最新情報をチェック

眼はらんらん、真っ赤に憤怒?巨大天狗の顔圧に、煩悩も吹っ飛びます!

おもしろいのは絶壁を登り、谷を飛び越え修行する超人的な日本の山伏たちの姿が、いつの頃から空駆ける天狗と重なった。当時の山伏は薬草の知識が豊富で各地の文化も詳しく文武両道。いつしか天狗は妖怪から守護神に格上げされ「修行を積んだ山伏は死後に天狗となって山を守る」と信じられるようになったとか。

そういえば山伏と天狗のファッションは似ている。一本歯下駄は二本歯より岩に挟まれにくく、腰の毛皮は斜面を滑り降りる時に便利だし、額の黒い「頭襟(ときん)」はヘルメット、ポンポンつきの法衣「鈴懸(すずかけ)」は、熊などに遭った時に体を大きく見せる役割もあったそう。彼らの装束は当時の最先端の登山ギアだったのだ。

話を迦葉山に戻そう。ここは山伏憧れの中峰尊者伝説の地でもあったが、新潟の八海山方面と東北の会津方面を結ぶ合流地点だった。賑やかな「山伏ジャンクション」で、山伏たちが岩に腰かけて薬草の情報交換をしながら、おにぎりでも食べていたのかもしれない。

その後、柏の葉でできた天狗の団扇が蚕が食べる桑の葉に似ていると、養蚕農家が地元だけではなく埼玉、新潟など遠くからも参拝に訪れるように。

養蚕の主役はお母さんだ。群馬は「かかあ天下」と恐れられるが、実は「うちの母ちゃんは日本一の働き者」と夫が自慢する言葉らしい。かつて神輿を担ぐのは男だったけれど、半世紀以上も前に「私たちだって」と沼田の女性たちは巨大天狗のお面を担ぎ始めた。今では夏の「天狗みこし」には、毎年300人の「天狗レディ」が大集合。市外の女性も担ぎにおいでと呼びかけている。

坐禅堂の「諸願成就大天狗」は8月の「沼田まつり」で担がれる

お話を聞いているうちに参拝者がやってきた。御年92歳になるご住職の羽仁素道さんが「ついでに」と祈祷に混ぜて下さるという。隙間風が吹く長い廊下の先に、三階建ての高さはありそうな山岳造りと呼ばれる急こう配な拝殿が現れた。左右の階段は54段ずつ、合わせると煩悩と同じ108段。ご住職はヨッコラショ、ドッコラセと一番、高い段まで登っていく。

ハラハラしていると背後から突如「ゴーン!」と太鼓の音が一発、思わず飛び上がる。おかげで煩悩が吹っ飛んだ。天狗たちも雪山のどこかで聞いているだろうか。

山岳造りの美しい拝殿と住職の素道さん

写真・文/白石あづさ…大学卒業後、地域紙の記者を経て約100か国3年間の世界一周後、フリーに。著書に『逃げ続けていたら世界一周していました』(岩波書店)、『中央アジア紀行 ぐるり5か国60日』(辰巳出版)、『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(文藝春秋)、『世界のへんな肉』(新潮社)ほか

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

※画像ギャラリーでは、沼田市の画像をご覧いただけます

月刊情報誌『おとなの週末』2026年4月号発売時点の情報です。

『おとなの週末』2026年4月号

■おとなの週末2026年6月号は「ビールは旅。」

『おとなの週末』2026年6月号
icon-gallery
icon-prev 1 2
関連記事
あなたにおすすめ

関連キーワード

この記事のライター

『おとなの週末』編集部
『おとなの週末』編集部

『おとなの週末』編集部

最新刊

全店実食調査でお届けするグルメ情報誌『おとなの週末』。2026年5月15日発売の6月号では、「ビール…