支配人かと思いきや
だが、受付にいた男性スタッフを見てほっとした。がっしりとした体形で口数も少なく、(私にとっていい意味で)いかにも山の男という風貌だったからだ。チェックインまでの時間を潰そうと併設の食堂でカレーを食べながら外の景色をぼんやり眺めていたところ、背後から「お客様、大変、長らくお待たせ致しました」と軽やかな声が聞こえた。
振り返ると先ほどの受付スタッフとは違う年配のおじさまで、「本日は雨ですので、早めにカウンターを開けさせていただきます。あいにくの雨でお疲れでしょう。お荷物、お持ちしましょうか?」とほほ笑みながら手を差し伸べる。
私の「お荷物」は汗臭い山のザックだ。あわてて手を振って自分で背負う。星付きホテルのコンシュルジュのような彼の立ち振る舞いから「きっとこの人が高原ロッジの支配人なのだろう」と考えながらついていくと、おじさま自らチェックイン作業を始めた。なぜか先ほどの山男風のスタッフふたりが席を離れ、彼の背後で仁王立ちするのであった。
おじさまは咳払いをして小さなメモ帳を開き、そこに書かれた文字を指で追いながら、宿泊の注意事項を一生懸命に述べ始めた。額ににじむ汗をぬぐいながら「ええと……」と言葉につかえるたびに後ろの山男たちが、「落ち着いて!」「風呂の時間も言って!」などと小声でささやく。実はおじさまは支配人ではなく今日がデビューの新人さんで、山男たちは先輩だったらしい。
すべての説明が終わると、全員でほっと胸をなでおろした。が、その直後に団体客のお母さんたちが「あ~、つかれた~」「もう入れる~?」と、ドヤドヤと入ってきて、おじさまの血圧がうなぎのぼりに跳ね上がったのが、こちらにも伝わって来た。こんな雨で誰も来ないと思われたが今日は満室なのだとか。



