国内外から愛される京都にあって、もっとも京都らしさを味わえる空間……そのひとつが旅館ではないでしょうか。京文化に深く根ざし、歴史とともに育んできたプライド、守られ受け継がれてきた伝統をもって供される“もてなし”のカタチ。変容する時代に対応しながらも、自身の存在意義は決して忘れない……“唯一無二の京都体験”がここにあります。
格式ある美を、わかちあうために守る
総ヒノキ造りで国の登録有形文化財にも認定される瀟洒な建物。風格ある唐門を入り、旅館の玄関をくぐると銅鏡の意匠を写したステンドグラスや玉虫厨子を模した欄間。独特の優美さが内装のそこかしこに……。
京都御所から鴨川を渡った東側。北に比叡山、東に大文字山を望む緑豊かな吉田山の中腹、周囲を神社仏閣に囲まれた高級料理旅館『吉田山荘』があります。
ここは1932(昭和7)年に昭和天皇の義理の弟君、東伏見宮が京都大学に通うため別邸として建てられたもの。得度を受けていた宮様が青蓮院門跡の門主となった戦後、人手に渡ることとなり、1948年に料理旅館として創業します。
「京都の自然を楽しみながら京懐石を召し上がっていただく。ご宿泊のみならず、昼夜ともにお食事だけでもご利用いただける料理旅館でございます。初代や母(大女将・中村京古さん)の時代は京都各企業の御接待でのお席が多かったようですね」とは3代目女将・中村知古さん。
東山連峰も見渡せる高台に位置し、よく手入れされた庭には蝶や鳥も姿を現す。そんな風情に華を添えるのが、大女将が日本古来の変体仮名文字で墨書した四季折々の和歌。万葉集や古今和歌集、源氏物語などから季節ごとに選んだ歌で客人を迎えるのも『吉田山荘』ならでは、文化の香り豊かなおもてなし。
「大女将の美学は書や着物、伝統芸能、コーヒーカップや酒器のデザイン、自身の名を冠したお酒をつくるなど多方面に渡ります。和歌のおもてなしも20年以上続け、ひとつの文化伝承の発信となっています。私も手習いはしていますがまだまだですね」と笑う。