平安貴族の雅な風習が今に残るお月見
二十四節気をはじめ歳時に合わせて季節感を大切にした客室の室礼やお料理、また利用目的に応じて整える気配りは、旅館のおもてなしに欠かせないもの。
毎年秋には東山に登る月を愛でる十五夜と十三夜の観月会が行われており、今年で41回目を迎えています。三宝で供される一品にはじまり、うずらを満月に見立てタチウオで煌めきを表現した先付。松茸や名残鱧のだしを味わう土瓶蒸し、秋冬の定番・特製鴨ロースの味噌漬けなどのお料理が並びます。
中村さんが受け継ぐ言葉「真実一路」には、細やかな心配りは丁寧で誠実なもてなしを原点にという創業者や祖父母の教えが込められています。「美しいものへの憧れと共有」「ご縁の橋渡し」などの理念を掲げ、京都の歴史や伝統、文化を大切にし、『吉田山荘』ならではの雅な世界を守り伝えることを意識しています。その姿勢は母である大女将・京古さんの姿から学んできたもの。
カフェで触れる吉田山荘の世界
母屋の横に建つカフェ『真古館』は、ドイツ様式の建物でクラシカルな雰囲気が若い人たちに人気の場所。宿泊客以外にもこの空間に触れてほしい、そんな想いからカフェとして2007年に開放されています。カフェを仕切るのは女将の妹・岡部紀子さん。
「吉田山荘の美しい空間を多くの人と共有するため、カフェでもいろいろな催しを企画しています。今後は再来年の大河ドラマの予習として源氏物語の魅力を学ぶ会をはじめる予定です」と中村さん。
最近は特に、百人一首を学ぶ会、古典の変体仮名を学ぶ書道の会、各種作家さんの個展や展示会、伝統文化に携わる若いアーティストを招いてのコンサートなど、人と人、人と伝統文化を繋げる催しも積極的に設けています。
学生時代の海外留学経験や海外の旅行関係者と交流を重ねるうちに気づいたのは、旅人が日本に求めるのは長い歴史に裏打ちされたオリジナリティだということ。
「新しいものにこだわると、その替わりに失うものが出てきます。歴史や伝統文化を大切に持ち続け、温故知新の精神で、古き良きものを遺しながらも、更に新たな夢や分野にチャレンジしていきたいと考えております」。
コロナ前は8割ほどが海外からのお客様という時期もあったそうです。そこには国内・海外の旅行者に限らず、守られるべき京都と人をつなぎ、共有することを担うのが京旅館の役割であることを示しています。
女将たちの強い信念と矜恃が支える「やっぱり京都!」なひととき。“京都で旅館体験”が素敵な理由はここにあるようです。
元東伏見宮別邸 料理旅館『吉田山荘』
住所/京都府京都市左京区吉田下大路町59-1
電話/075-771-6125
備考/お食事:昼の部11:30~13:00、13:00~14:30、夜の部17:00~19:00(左記スタート時間より約2時間)
宿泊:チェックイン16:00、チェックアウト10:00
※本館改修工事により、2022年11月後半〜2023年3月中旬頃まで宿泊およびカフェ『真古館』は休業。
『カフェ真古館』
営業時間/11:00~18:00(L.O.17:30)
休業日/月・火・水
編集/エディトリアルストア
取材・執筆/成田孝男、渡辺美帆
写真/児玉晴希
※情報は令和4年10月28日現在のものです。