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平安貴族の雅な風習が今に残るお月見

二十四節気をはじめ歳時に合わせて季節感を大切にした客室の室礼やお料理、また利用目的に応じて整える気配りは、旅館のおもてなしに欠かせないもの。

毎年秋には東山に登る月を愛でる十五夜と十三夜の観月会が行われており、今年で41回目を迎えています。三宝で供される一品にはじまり、うずらを満月に見立てタチウオで煌めきを表現した先付。松茸や名残鱧のだしを味わう土瓶蒸し、秋冬の定番・特製鴨ロースの味噌漬けなどのお料理が並びます。

中村さんが受け継ぐ言葉「真実一路」には、細やかな心配りは丁寧で誠実なもてなしを原点にという創業者や祖父母の教えが込められています。「美しいものへの憧れと共有」「ご縁の橋渡し」などの理念を掲げ、京都の歴史や伝統、文化を大切にし、『吉田山荘』ならではの雅な世界を守り伝えることを意識しています。その姿勢は母である大女将・京古さんの姿から学んできたもの。

食事用の部屋は庭園に面した空間。四季折々の風景もエッセンスに。
客間は季節の室礼に整えられる。中秋の名月にちなみ、日本画家・植中直斎作のかぐや姫が飾られた床の間。
万葉集や古今和歌集などから季節に合った句を選び食事に添えるもてなしのひとつ。10月は十三夜のお月見にちなんだお料理が並ぶ。三宝で供される先付の一品はホウレンソウとキノコのおひたしに、エビ、ギンナン、ムカゴを添えて。萩などのあしらいは庭で採れたもの。
庭に3本あるという手入れされた栗の木から採れた栗の甘露煮とアジのお鮨。真ん中には、うずらの卵に巻き付けたタチウオが月光のような煌めきを放つ先付。
松茸とともに、夏の盛りの頃より脂がのった名残鱧を味わう土瓶蒸し。
秋冬の定番は合鴨ロース。自家製の味噌に数日間漬けこんだ風味豊かなロースト。白髪ネギ、はじかみ、らっきょうのシソ漬けを添えて。

カフェで触れる吉田山荘の世界

母屋の横に建つカフェ『真古館』は、ドイツ様式の建物でクラシカルな雰囲気が若い人たちに人気の場所。宿泊客以外にもこの空間に触れてほしい、そんな想いからカフェとして2007年に開放されています。カフェを仕切るのは女将の妹・岡部紀子さん。

「吉田山荘の美しい空間を多くの人と共有するため、カフェでもいろいろな催しを企画しています。今後は再来年の大河ドラマの予習として源氏物語の魅力を学ぶ会をはじめる予定です」と中村さん。
最近は特に、百人一首を学ぶ会、古典の変体仮名を学ぶ書道の会、各種作家さんの個展や展示会、伝統文化に携わる若いアーティストを招いてのコンサートなど、人と人、人と伝統文化を繋げる催しも積極的に設けています。

本館の入口奥に建つドイツ風建築は、ガレージだった建物を2007年に改築。宿泊客以外も利用できるカフェとして営業している。
朝は宿泊客に朝食後のコーヒーをふるまい、11時からカフェとして一般営業。丁寧に淹れたコーヒーや特製ケーキ、ぜんざいが楽しめる。
庭の木々に囲まれ屋根裏のような隠れ家の雰囲気もある2階フロア。比叡山や京都タワーを望む景色は素晴らしく、窓から心地よい風がふき抜ける。
コーヒーカップは大女将のデザイン。ブレンドコーヒー(800円・税込)にはシナモンが香る固焼きのコウモリビスケットが。店頭販売もあり。

学生時代の海外留学経験や海外の旅行関係者と交流を重ねるうちに気づいたのは、旅人が日本に求めるのは長い歴史に裏打ちされたオリジナリティだということ。
「新しいものにこだわると、その替わりに失うものが出てきます。歴史や伝統文化を大切に持ち続け、温故知新の精神で、古き良きものを遺しながらも、更に新たな夢や分野にチャレンジしていきたいと考えております」。

コロナ前は8割ほどが海外からのお客様という時期もあったそうです。そこには国内・海外の旅行者に限らず、守られるべき京都と人をつなぎ、共有することを担うのが京旅館の役割であることを示しています。

女将たちの強い信念と矜恃が支える「やっぱり京都!」なひととき。“京都で旅館体験”が素敵な理由はここにあるようです。

元東伏見宮別邸 料理旅館『吉田山荘』

住所/京都府京都市左京区吉田下大路町59-1
電話/075-771-6125
備考/お食事:昼の部11:30~13:00、13:00~14:30、夜の部17:00~19:00(左記スタート時間より約2時間)
宿泊:チェックイン16:00、チェックアウト10:00
※本館改修工事により、2022年11月後半〜2023年3月中旬頃まで宿泊およびカフェ『真古館』は休業。

『カフェ真古館』

営業時間/11:00~18:00(L.O.17:30)
休業日/月・火・水

編集/エディトリアルストア
取材・執筆/成田孝男、渡辺美帆
写真/児玉晴希

※情報は令和4年10月28日現在のものです。

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おとなの週末Web編集部
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