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老舗蕎麦店『やぶ』と『更科』。そこにあるのは、長く愛される伝統の味と空気。目まぐるしく変化を続ける現代において、変わらぬおいしさを愉しむための秘訣を教わってきました。今回は老舗蕎麦店『かんだやぶそば』をご紹介します。

老舗の風景に身を馴染ませる心地よさ

昔の神田連雀町、現在は淡路町の一角に今も緑と石垣に囲まれて趣のある店構えを見せている『かんだやぶそば』。店内に入っても、落ち着きがありながらどこか凛とした空気感は変わらず、その中で思い思いに蕎麦を楽しんでいる。いいねえ、この佇まい。

『かんだやぶそば』代々が新しいチャレンジを続けてきた

藪蕎麦の名前は、幕末の頃から本郷団子坂にあって人気を集めた「蔦屋」に由来する。その庭に竹藪があったことから「おい、藪で蕎麦食おうぜ」といつしか店の代名詞になったそうだ。で、『かんだやぶそば』の初代・堀田七兵衛が連雀町支店の暖簾を譲り受けて営業を始めたのが明治13(1880)年のこと。

面白いのはこの七兵衛さんがそれ以前、蔵前で4代続いた砂場系の店をやっていて藪に乗り換えたって話だ。その理由は定かでないが、新興の蕎麦屋として登場した蔦屋は、広大な敷地に庭園があり、客は風呂に入ってから蕎麦を楽しめたとか。つまり、ゆっくり蕎麦を楽しめる新しいスタイルを提案していた。明治という新時代を迎え、そこにヒントがありそうだ。

『かんだやぶそば』の現社長・堀田康太郎さんに、同店が代を重ねる中で大切にしてきたことは何かと尋ねてみた。返ってきた答えは「大変な時代を何度も乗り越えてきたのは、代々が先々を見て新しいチャレンジをしてきたからでしょうね」とのこと。その積み重ねで磨かれてきたものが今、目の前にあるわけだ。

『かんだやぶそば』せいろうそば 908円

『かんだやぶそば』せいろうそば 908円 国内産の最上級粉を使い、蕎麦粉10、小麦粉1の外一で打つ

『かんだやぶそば』といえばまずはせいろう。端正な細切りの蕎麦は、挽きぐるみで蕎麦を丸ごと味わってくれとばかりに強い香りと甘みを感じさせる。色はグリーンがかっている。これを切れ味のある濃いめの汁にちょいとつけて手繰るのがいいんだな。

「挽きぐるみの力強い蕎麦には、辛い手前くらいの濃い目の汁が相性がいい」(堀田さん)というわけで、緊張感のある絶妙なバランスの上にあるってことになる。ちなみに蕎麦の緑色は、新蕎麦の緑が夏場にはなくなっておいしく見えないため、初代が工夫して若芽を練り込んだのが始まりだということだ。

青みがかった色合いが藪らしさ

老舗の蕎麦屋に来たならば、もちろん、温かい種物の蕎麦をいただくのも楽しい。せっかくなので堀田さんに「種物の魅力っていうのは何ですか?」とも尋ねてみた。その答えは「情緒ですかね」。

例えばおすすめのひとつ「月見そば」。温かい蕎麦に玉子を落として汁をかけていく。そこに描かれているのは、卵黄の月であり、白身がくぐもらせる雲の表情であり、その下の海苔は夜空なのかもしれない。

『かんだやぶそば』月見そば 1331円

『かんだやぶそば』月見そば 1331円 温かい蕎麦の汁も味わい深い

商売繁盛の縁起物ともいう「おかめそば」なら、かまぼこのほっぺに、三つ葉のかんざし、松茸や島田湯葉で顔が描かれている。こちらは少し丸みのあるおダシと一緒に味わいながら、江戸っ子らしいそんな遊び心に想いをやるのも粋ってもんだ。

「素材の力を信じて、邪魔しないことが大切」(堀田さん)、そう話す傍で、今日も木樽の中でかえしが呼吸をして丸みを帯びている。「お客様が蕎麦を勢いよく啜る音や笑い声が、店の雰囲気を色づけてくれる」とも。ならばその風景の一端となって今日も蕎麦を楽しみたい。

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おとなの週末Web編集部
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