【その11ニッポン賭けゴルフ連盟】第2ホールパー4(この精神がわからんのか4)
ある総務部長からののっぴきならない相談事
「秘密は守ってもらえますか?」
「誓います」
「では、信用してお見せします。これが最近の成績一覧表です。数字の単位は万、この票によると、一番負けている人で75万円になります」
「プラス印が勝者ですね? するとAさんは122万円も勝っているわけだ。先ほど成績は6ヵ月単位だとおっしゃいましたが、間違いありませんね?」
「はい、毎月1回コンペをやって、半年毎に清算します」
私たちはホテルのティールームの片隅に座り、まるで悪事でも企む気配を漂わせながら声をひそめていた。彼の肩書きは中堅企業の総務部長、業界でも評判の切れ者だった。
同業者の社長と重役たちによって構成された問題のコンペは、結成されて10年、最初のころはニギリもささやかだったが、やがてエスカレートして、いまや賭けゴルフのための集団と化していた。この6ヵ月間、彼はコンペの幹事役を仰せつかってきたが、毎月膨張する賭けゴルフの実態のひどさに呆然。
「相談したいことがあります」
ある日、私の仕事場の電話が鳴った。
「ひどい賭けゴルフのグループに、首まで嵌(は)まってしまいました。どうしたら抜け出せるのか、お知恵を拝借できないでしょうか?」
彼が持参したのは、前任者から託された一冊の大学ノートだった。数字で埋まった最初の日付が2年前、これまでに4回の清算が行われた動かぬ証拠というわけだ。私は最初からゆっくりとページをめくっていった。
それにしても、Aさんの強さは異常である。過去4回の清算金額を机上の紙ナプキンに書き出したところ、「43万円」「62万円」「95万円」「122万円」と上昇して、4回の勝ち金合計が「322万円」!
「わずか2年間で、この金額は凄いの一語につきます。失礼ですけど参加者の皆さんは堅気の方でしょう?」
「職種は荒っぽいかも知れませんが、もちろん堅気です」
「Aさんの勝ち金額から察するに、1回のニギリが次第にエスカレートしていますね」
「はい。ハーフナッソーで1万円だった勝負が、負け組の要請によって2万円になり、5万円に上昇し、いまでは10万円です。それとは別に1打1万円の賭けが行われ、ショートホールでは乗らなかった者が1オンした者に各3万円ずつ支払います。もし3人乗って1人だけ乗らなかった場合、そのホールだけで9万円の負けです」
「途方もない話だ。ほかにも別種類の賭けが行われていますか?」
「OB1発1万円、これは会に寄付されます。数年前のコンペでは、コースがむずかしかったこともあって、1回のコンペで22万円も収入がありました。その金で帰路、相応の店に寄って食事を取るわけです。現在、会には50万円くらいの資金があります」
「このノートには2年間の成績しか載っていませんが、あなたの知る限り、これまでに最も負けた人は、一体いくら支払ったのでしょうか?」
「私は1年前から参加した新参者、ゆえに仄聞ですが、B社のC社長は6ヵ月間に400万円も負けたと言っていました。次の6ヵ月でも同じくらい負けたそうですから、1年間で800万円になります。これがゴルフでしょうか?
情けなくて参加するのもはばかられますが、何しろ同業者は公共事業の受注関係と絡んで、日ごろのつき合いが肝心、しかも社命とあって断わるわけにもいきません」