赤い堅固な殻をまとい、立派な長い髭と曲がった腰が長寿の象徴として珍重されるいせ海老は、おせち料理や祝い事といったハレの日の食卓に欠かせない高級食材です。近年、漁獲量が急増している茨城県では、2023年6月に「常陸乃国(ひたちのくに)いせ海老」と命名した“ブランドいせ海老”が誕生。飲食店、漁業者らがタッグを組み、県内外へ販路を拡大しつつ、認知度アップに努めています。身も殻も味噌も余すところなく堪能できるいせ海老を、もっと味わってほしい―――。旬を迎えた現地で見た、関係者の熱い思いが込められた「常陸乃国いせ海老」の魅力をご紹介します。
漁獲量10年で10倍超、17位→7位「海水温の上昇で、生息地北上の可能性」
いせ海老は、暖かい黒潮が流れ込む太平洋沖で広く水揚げされ、主に三重県や和歌山県、千葉県が産地として知られています。近年、茨城県で漁獲量が急増していると聞いたものの、幼少より茨城在住の筆者にとって、いせ海老大漁の記憶はありません。半信半疑で茨城県漁政課に問い合わせたところ、県産いせ海老の漁獲量は2012年が6トンで全国17位でしたが、2022年は67トンで全国7位へ10年で10倍以上と、驚異的に増え続けています。
なぜ、これほどまで茨城県沖でいせ海老が獲れるようになったのでしょうか。「(気候変動による)海水温の上昇などで、生息地が北上している可能性が考えられます」と茨城県水産試験場では分析しています。
2023年6月にブランド化、大きくて見映えが良いのが特徴
茨城県産のいせ海老は、個体が大きく脚まで身が詰まって他県産の一般的なものと比べて2~3倍もの重さを誇るものが多いうえ、見栄えが良いのが特徴です。
そこで茨城県は、県内の飲食店や漁業者らと共に、県産いせ海老の消費を県内外に拡大しようと、ブランド化を推進。2023年6月、「常陸乃国いせ海老」が誕生しました。ブランドの基準として、1尾600グラム以上を「スタンダード」、1キロ以上を「プレミアム」と定め、触覚や目が揃った見栄えが良いものとしています。
茨城県では、ブランド発足直後の2023年、水戸市内で行われた国際会議や全国育樹祭にも常陸乃国いせ海老を提供。国内外の来場者に好評だったことから、「今後、県外や海外からの観光客も取り込めるよう、さまざまな取り組みを実施していく」(漁政課)と意気込んでいます。
水戸「山口楼」の懐石料理「常陸乃国いせ海老尽くし」を味わう
「常陸乃国いせ海老は、7月から9月にかけて漁の最盛期を迎えています。鮮度の良いかなり大きないせ海老に驚きつつ、とても喜ばれてリピートしてくださるお客さまも多い。夏の風物詩として、定着できるよう努めております」
水戸市内にある明治5(1872)年創業の老舗料亭「山口楼」本店を訪れると、五代目にあたる山口晃平社長(51)が、新たな名物を前に、一品ずつ説明してくださいました。
山口楼本店では、懐石料理のコース「常陸乃国いせ海老尽くし」を用意。お造りや焼物、煮物、炊き込みご飯など、10品ほどが楽しめます。
「身も殻も余すところなく使い切って、いせ海老の旨味を最大限引き立てております」と話すのは、相田昌弘料理長(46)。30代前半から、この老舗料亭の料理長を任せられている精鋭です。