香淳皇后のご生涯について記された『香淳皇后実録』が、宮内庁から公開されて注目を浴びている。97歳というご長寿をまっとうされた良子さま(ながこさま/香淳皇后)は、晩年、ご家族のそばに住まわれ、子や孫たちに囲まれて過ごされた。40年余にわたり足しげく良子さまのもとを訪れた美智子さまは、たくさんの思い出を御歌に詠まれている。今回は、良子さまと美智子さまの心のふれあいの物語である。
昭和天皇と良子さまの散歩道
昭和天皇と良子さまがお元気だったころ、しばしばおそろいで朝の散歩をなさった。季節のよいとき、吹上御所から大池に通じる小道を進むと、2本のナツメの木が見える。ナツメの木がお散歩の目標だった。花や緑の美しい季節に合わせて、お散歩の道は変えられた。
昭和天皇が良子さまに、
「良宮(ながみや)、今日はどちらに行く?」
とやさしいお声で言われる。良子さまが、
「御意(ぎょい)のままに。どちらにでもお伴いたします」
とお答えになる。ひざを痛められたことのある良子さまをお気遣いになる昭和天皇は、よく、
「良宮、大丈夫?」
とお尋ねになる。
「大丈夫でございます」
と、良子さまはきれいなソプラノでご返事になる――。
それは穏やかなお二人のひとときであった。