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『松登久』@池上

鶏と和ダシが織りなす深い深いコクと旨み、ただものではない

カレー丼(800円)
重たくないカレー丼を、と選んだ具が岩手産「菜彩鶏」。柔らかく臭みがない。カレー全体が上等なあんかけのようで、するする胃に収まる

最寄りの池上駅から徒歩15分。初めて訪れた日は「遠いなぁ~」と思った。が、そんなボヤキは「カレー丼」を口に運んだ瞬間どこへやら。

こ、これは……!? 口いっぱいに広がる、深い深いダシの余韻。一般的にカレー丼には豚肉を使う店が多いが、こちらは鶏のムネ肉。和素材のダシとチキンのコクが合わさり、得も言われぬ旨さに引き込まれる。

創業は昭和37(1962)年。白めに仕上げた更科系の蕎麦の実力はもちろんのこと、カレー丼のほかに欧風カレーライスがあったり、豚骨からスープをとるラーメンもめちゃ旨だったり。並の定食屋より多彩なのでは?

これまでの蕎麦屋の固定概念を、素敵に覆されてしまった。

鴨南ばん(950円)
温蕎麦の人気は仏産品種マグレ・ド・カナールの鴨南蛮。濃厚な脂のコクがやみつきに

もり(550円)
ツユはやや辛口のキリリとした味わい

右:3代目 佐藤昌宏さん
中央:女将 佐藤ヒメ子さん
左:窪田充子さん(娘さん)

[住所]東京都大田区中央7-15-11
[電話]03-3754-2222
[営業時間]11時~14時半、17時~19時半
[休日]水
[交通]東急池上線池上駅から徒歩15分

『東嶋屋』@入谷

幸福の花咲く黄色いカレーに魅せられる

ライスカレーセット(930円)
味の決め手はカレーペースト。小麦粉、カレー粉、ラードを合わせたものだが、それ以外は企業ヒミツ。具は豚バラ肉と玉ネギのみ。お好みでウスターソースをかけて味の変化を楽しんで

運ばれてきた瞬間、パァッと明るい気持ちになる。とろとろツヤツヤ、黄色いカレーがたっぷりかかった丼。明治25(1892)年創業『東嶋屋』のアイドル的人気メニューだ。

蕎麦屋のカレーはツユをそのまま使うことが多いが、こちらはかえし醤油と合わせる前の一番ダシで仕上げる。旨みや塩気が突出することなく、まん丸の円を描くとでも言おうか。蕎麦は江戸前の二八でのど越しが素晴らしく、カレーの後口をさっぱりさせてくれる。

「幸せの黄色いカレーと呼ばれて、うれしいやら恥ずかしいやら」と、女主人の尚子さんのハニカミ笑いもチャーミング!

天ぷらそば(1000円)
約20cmサイズのエビ天のド迫力!揚げたてを投入する際のジュワ~音をお聞き逃しなく。エビ天は1本500円で追加もできる

ライスカレー(710円)
カレーは単品で頼むと平皿で提供される。注文後に一品ずつ丁寧に調理するため、提供までに時間がかかることも

[住所]東京都台東区竜泉1-29-3
[電話]03-3872-6261
[営業時間]11時15分~14時半LO、17時半~19時半LO
[休日]日・祝
[交通]地下鉄日比谷線入谷駅3番出口から徒歩6分

町蕎麦屋はファミレスのような存在であるべし?

前回は蕎麦屋のカツ丼の魅力を紹介したが、カレー好きの人もまた、どこへ行ってもカレーを頼みがちな傾向にある。牛丼屋で、中華料理屋で、そして蕎麦屋でもカレーに飛びつく。

丼物と同様、和ダシの利いたカレーは蕎麦屋ならではの美味しさだ。何というか、ホッと帰ってきたような安堵感がある。とあるカレー評論家が『東嶋屋』のライスカレーを「世界一旨い」と称したらしいが、ナルホドと納得した。

欧風カレーや凝ったエスニックカレーを食べ歩くと恋しくなるのだろう。子どものとき、カレー粉と小麦粉で作るお家のカレーを知る私にとっても、蕎麦屋のカレーは有無を言わさぬごちそうなのだ。

そして、大きな視点に気付かされたのが『松登久』だ。カレー丼に感動したが、品書きに「カレーライス」があるので違いを訪ねると、そっちは蕎麦のダシを一切使っていない(!)香辛料ビシバシ系だという。

町の蕎麦屋の役割はファミレスと同じ。定食でも中華でも、要望があれば何でも作りますよ」。

蕎麦屋の受け皿は、かくも広く深い。

撮影/小島昇(松登久)、石井明和(東嶋屋) 取材/林匠子
※店のデータは、2020年12月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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terasaki
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