素材の選び方? それとも、デザイン? 新しい試みが続々
ねりきりの生菓子を普段のおやつで食べてますよ、なんて人がいたら、なかなかの強者。抹茶を点てるときの茶菓子のイメージが強いし、軽い気持ちで食べちゃいけない気がしてた。
その考えがガラッと変わったのが、『鎌倉創作和菓子 手毬』。
代表作の「手毬」は、ころんとした小さな形もかわいいし、パステルカラーのセンスも抜群。
和菓子の手作り体験も、「ねりきりは食べたことがないけど、楽しそうだったから」という女子たちが参加。
味わえば、甘さ控えめのなめらかなあんで、すーっと体に馴染んでいく。これが初めてのねりきりなら、きっと和菓子を好きになるに違いない。
店主の御園井裕子さんが和菓子を作り始めたのは約25年前。和菓子は男性社会で、お店で働かせてもらうのもひと苦労だったとか。今や、世界各国から引く手あまた。
そしてなお「アイデアが溢れてきて、体が追い付かないんです」と涼しい笑顔の御園井さん。かっこよすぎる!
『麻布野菜菓子』では半信半疑で「柿とバターのきんつば」をいただく。ねっとりと熟した柿を食べているかと思うぐらい濃い!
「よくある中途半端な風味のものとは違うでしょ」とは代表の花崎年秀さん。
すべてのお菓子を新しい発想で作るのがお店のモットーなので、製造スタッフは頭の柔らかい新人を採用することが多いとか。
また、和洋それぞれのスタッフがいることで、垣根を越えて自由にアイデアを出し合えるのがこの店の原動力だ。
『鎌倉創作和菓子 手毬』と同じく、SNSで和菓子を検索するとトップに出てくるのが、『タケノとおはぎ』だ。
花のようなデザインやカラフルな色合いは、まさにアート! しかも、オレンジやカカオなど、ハッとさせられるような味ばかり。
どうしたら思いつくのか、店主の小川寛貴さんに聞くと、
「季節ごとに変わる生菓子と同じ感覚です。料理と同じように、あん以外の素材の味も楽しんでほしいので、あんは極力甘さを控えてるんです」。
というのも、小川さんはもともとスペイン料理のシェフ。さらに、
「白あんに使う白いんげんは、サラダや煮込みなどいろんな料理に登場する食材。アレンジ次第でどんな食材とも相性がいいんですよ」。
そう考えると、スペイン料理からおはぎにつながったのも不思議じゃない。
そして、酒飲みにたまらないのが『和菓子 薫風』。初来店なら、まずは「薫風お試しセット」をオーダーしたい。
セットのうちの「ごぼう夢」は、ゴボウの土っぽさとコーヒーの錦玉羹の焙煎香、クミンシードを練り込んだ浮島のスパイシー感が
見事に一体化。
そこへ日本酒の「達磨正宗 熟成三年」を口に含めば、ふくよかな味わいとナッツの香りが絡み合い、大地を想像させる深いコクがじんわり染み入る。
和菓子をパクッ、日本酒をグビッ、美味し過ぎて止まらない!
甘さ控えめの軽やかな味わいなら 毎日でも食べられる!
和菓子店に似つかわしくないモダンな店構えの『SAKATAYA1793』で目が釘付けになったのは、「へちかん」。風変りな言動で知られた茶人「丿貫(へちかん)」をイメージしたそう。
外側は黒胡麻の薄い羊羹で、中には白い外郎が。ゴマの濃厚な香りと、とろとろの舌触りが絶品!
店主の日下拓さんは、固定概念があると新しい和菓子は生まれないと、大学を卒業するまで家業に関わらなかったそう。
日下さん曰く、
「ケーキやカクテルからヒントを得ることも。ここでは新しい材料で攻めた和菓子を作ります」
と意気込み十分。
吉祥寺・井の頭公園の近くで土曜日だけオープンする『季節のお菓子 omatsu』は、「場所#4(イノヨン)」というシェアキッチンで営業するお店。
まず、和菓子では珍しいミントリキュールを練り込んだ「新緑の香り」をいただくと、最初はミントを感じない。でも、いつしか口の中でふわ~っとミントの香りが漂って、同時にあんに使う豆など、素材そのものの美味しさが広がる。
店主の松立直子さんは
「私のお菓子は画期的な味でも、芸術的でもない」
と謙遜するけれど、シンプルで素朴で美味しいというのが、実は一番難しい気がする。
振り返ってみると、和菓子のニューウェーブはただの変わりダネではなく、あくなき挑戦から生まれているものばかり。そのおかげで、和菓子のすそ野が広がってきているのは間違いない。
和菓子はこれから、もっともっと楽しくなりそう!
※店のデータは、2021年5月号発売時点の情報です。
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