オーディオルームで上質の音に身を委ね、“凝り”をほぐす
村上春樹ライブラリーの中で、どこを一番オススメするか。個人的には、1階の入り口向かって右側の「オーディオルーム」を、強く推す。レコードやCDを聴きながら、ギャラリーラウンジの本を読むことができる読書空間でもある。
システムは、村上さんのオーディオのアドバイザーを務めるオーディオ評論家で雑誌『ステレオサウンド』元編集長の小野寺弘滋さんが選定し、セッティングしたものだ。
レコードプレーヤーは「LUXMAN PD-171A」、カートリッジは「ortfon SPU Classic GE MK II」、CDプレーヤーは「marantz SA-12OSE」、プリメインアンプは「Accuphase E-380」、スピーカーは「JBL L82 Classic」と「Sonus faber LUMINA III」。
「古いLPレコードには、LPレコードにしかないオーラのようなものがこもっている。そのオーラが、まるでひなびた温泉のお湯のように僕の心を芯からじんわり癒やしてくれる」
村上さんは、今年6月刊行の『古くて素敵なクラシック・レコードたち』(文藝春秋)の序文「なぜアナログ・レコードなのか?」の中で、こう“レコードの効能”を説いている。
オーディオルームの家具も、逸品ぞろいだ。その中で、ウェグナーの椅子に深く腰をかけて目を閉じる。「JBL L82 Classic」と「Sonus faber LUMINA III」。このスピーカーの2つの銘機から流れる、やわらかで温かみのある音が部屋全体をやさしく包み込む。たしかに、山間の静かな温泉に肩までつかっているような感覚だ。心の“凝り”も、ゆっくりとほぐれていく。
スタッフの方にお願いしてかけてもらったLPは、ハンプトン・ホーズ(1928~77年)のアルバム『everybody likes HAMPTON HAWES Vol. 3 : the trio』。戦後、日本人ジャズ奏者たちとも交流があり、日本には縁の深い米ジャズピアニストだ。
ジャケットを裏返すと、子猫のかわいいイラストと「PeterCat」のスタンプが。40年以上前、店内で村上さんがこのレコードを手に取り、ターンテーブルに載せている様子を思い浮かべた。さらに幸せな気分がふくらんでいく。
「村上春樹ライブラリー」は、村上さんと、その愛蔵の品々や館内に込められた人々の想いを通じて心を通わせ、自分に大切な何かを「学ぶ」空間なのだと思う。