蕎麦を食べる前に、板わさや玉子焼きなどをつまんで杯を傾ける……。そんな「蕎麦前(そばまえ)」をゆっくりと味わえるお店をご紹介します。なんとも気の利いた上質な料理と酒肴でお酒を楽しむ時間は、至福で極楽。〆の蕎麦が、いっそう愛しくなるというものです。
画像ギャラリー『潮』@西国分寺
華麗な料理の数々に蕎麦までの道のりが楽し過ぎて困る
「毎年この海老芋を待ちかねる常連さんが多いんですよ」と教えてくれたのは店主の潮さんだ。
繊細な海老芋は身割れしないようにそっと静かに炊き上げて味を含ませる。その技たるやため息ものである。
潮さんは料亭の元料理長。料理への情熱と知識は計り知れず、そこから生まれるメニューは蕎麦屋の枠を軽やかに超えていく。技ありの一品から何気ないぬか漬けまで、シンプルな中にも料理屋の手仕事が隠れているのだ。壁に貼られたイラスト入りの品書きを見るだけで、あれもこれも食べたい欲望に火が付くこと必至。
最後はしなやかな蕎麦で〆て気分は上々。寒い冬の夜にも、駅へとたどる道々は口福の余韻に包まれて、心はじんわりと温い。
[住所]東京都国分寺市西元町2-18-11
[電話]042-359-2898
[営業時間]11時半~14時LO(土~15時LO)、17時~21時(20時半LO)
[定休日]火(祝日の場合は翌日休)
[アクセス]JR中央線ほか西国分寺駅南口から徒歩7分
『すぎやま』@洗足
きれいな料理と酒、蕎麦でゆったり寛ぐ住宅街の隠れ家
和食の修業から料理の道へ入ったという杉山さん。豊洲市場へ出かけ、旬のいいものを探し出すのは習慣だ。
その甲斐あって、あん肝や白子といった冬の高級食材も、財布に優しい価格帯で出せる。
大きなハタハタの天ぷらは、頭、身、卵を別々に揚げるが、それを丸ごと一尾分、ドンとひと皿で。根菜の炊き合わせは、ポトフのように大きくカットして大皿に盛る。素材を慈しみ、丁寧に調理する料理だからこそ、あえて余分なものは削ぎ落とした直球勝負だ。
エアポケットのように静かな半地下の店も居心地がよく、この料理と酒、そして蕎麦でゆるりと過ごすにはうってつけ。
[住所]東京都目黒区洗足2-23-10 地下1階
[電話]03-3788-6938
[営業時間]11時半~14時LO、17時半~21時(20時半LO)
[定休日]水、第3木、不定休あり
[アクセス]東急目黒線洗足駅から徒歩1分
『蕎麦Sycamore』@世田谷
食いしん坊の心をくすぐる料理と多彩な酒を味わう
「あれもこれも食べてほしいと思ったらどんどん料理が増えてしまって」と話す店主の小川さん。
いや、その通り(笑)。旬の食材が主役の「本日のおすすめ」は超魅力的で、フルーツを上手に使ったものや市場で買いつけた魚介などが並び、目移りしてしまう。
さらに定番メニューを開けば、蕎麦屋らしくだし巻きや天ぷら、ポテトサラダと盛りだくさん。
これは食いしん坊にはたまらない!
日本酒はもちろんワインやビール、焼酎など酒のセレクトもいいので、好きなものを好きなように飲めるのがうれしい。
〆はお腹いっぱいでもするりと入る、軽やかなせいろを。
[住所]東京都世田谷区世田谷3-3-1 COMS Setagaya 地下1階
[電話]03-6413-5653
[営業時間]17時~23時
[定休日]月、第1・3火※不定休あり
[アクセス]東急世田谷線上町駅から徒歩1分
『ふるまい蕎麦 ふる井』@練馬
一つひとつ丁寧に仕上げた季節の味覚で誰もが笑顔に!
店を構える際、「3世代が楽しめる陽だまりのような店」を目指したという店主の古井さん。
その言葉通り、いつも楽しそうに寛ぐお客さんの笑顔が絶えない。
メニューの多彩さにも驚かされる。板わさや蕎麦豆腐など、蕎麦屋らしい料理はもちろん、12月であれば、ぶり大根、のど黒の天ぷらなど、“時季の味覚”の品書きもずらり。これが季節感抜群で年6回変わる。
そして手打ちの蕎麦もブレのない美味しさ。石臼挽き十割の粗挽き蕎麦は、細打ちで艶やか。噛めば心地よく香りが広がる。二八のかけ蕎麦ののど越しや汁の旨さにもほっとする。あれこれゆっくりとつまんだ後のお楽しみだ。
[住所]東京都練馬区豊玉中2-6-5
[電話]03-3992-9480
[営業時間]11時半~14時半(14時LO) ※土・日・祝~15時(14時半LO)、17時半~21時(20時LO) ※水は昼のみ
[定休日]木
[アクセス]西武池袋線練馬駅から徒歩12分
『手打ち蕎麦 ほかげ』@荏原町
しっぽり昼酒もよし 普段使いしたい大人の蕎麦屋
「しっぽりお酒とおつまみを楽しんでいただける大人の蕎麦屋」にしたいのだと店主の手塚一人さんは言う。
その通り、昼時でもひとりちびりと昼酒を楽しむお客さんの姿も多い。
「本日のおつまみ」と書かれた品書きには、実際、ちょっと堪らないメニューが並ぶ。
蕎麦屋にしてほぼ欠かさず白身魚の刺身や〆鯖があり、「他のものも食べられるように」と小鍋があるのもニクイ。
「料理と喧嘩しても構わないので僕の好みのものを」と置かれた酒がまた旨みののった精鋭揃い。
石川県産が多いという〆の蕎麦は二八で、のど越し風味よく、ストンと落ち着く。ちょいちょい覗きたい店だなあ。
[住所]東京都品川区中延6-1-21
[電話]050-3761-3517
[営業時間]月~金11時半~14時(13時半LO) ※金は夜のみ、18時~22時(21時半LO)
土・日・祝11時半~14時半(14時LO)、18時~22時(21時半LO)※定休日前日は昼のみ
[定休日]月(祝の場合は翌火休)
[アクセス]東急大井町線荏原町駅正面口から徒歩3分
撮影/貝塚隆、松永直子(すぎやま)、大西尚明(ふる井、ほかげ)
取材/岡本ジュン、池田一郎(ふる井、ほかげ)
※店のデータは、2022年1月号発売時点の情報です。
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
画像ギャラリー