蕎麦前が楽しめる東京の名店6選 ゆるりと酒を楽しむ時間を

蕎麦を食べる前に、板わさや玉子焼きなどをつまんで杯を傾ける……。そんな「蕎麦前(そばまえ)」をゆっくりと味わえるお店をご紹介します。なんとも気の利いた上質な料理と酒肴でお酒を楽しむ時間は、至福で極楽。〆の蕎麦が、いっそう愛しくなるというものです。

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『潮』@西国分寺

上から、海老芋炊き(950円) れんこん蒸し銀杏あん(2800円)
上は最上級といわれる大阪富田林の海老芋。箸がすっと入るほど柔らかく、口の中でほどけるとほんのりきれいな甘みが広がる。下はおろしたれんこんでクエ、車エビ、ホタテ、ゆり根、しいたけなど冬の美味を包んで蒸しあげたもの。銀杏あんをかけ、自家製のからすみを散らして

華麗な料理の数々に蕎麦までの道のりが楽し過ぎて困る

「毎年この海老芋を待ちかねる常連さんが多いんですよ」と教えてくれたのは店主の潮さんだ。
繊細な海老芋は身割れしないようにそっと静かに炊き上げて味を含ませる。その技たるやため息ものである。

潮さんは料亭の元料理長。料理への情熱と知識は計り知れず、そこから生まれるメニューは蕎麦屋の枠を軽やかに超えていく。技ありの一品から何気ないぬか漬けまで、シンプルな中にも料理屋の手仕事が隠れているのだ。壁に貼られたイラスト入りの品書きを見るだけで、あれもこれも食べたい欲望に火が付くこと必至。

あん肝たたき(2000円)
北海道余市産の生でも食べられるあん肝をサッと炙ってたたきに。淡雪のようなふんわりとした食感
スジアラお造り(2500円)
高級魚として知られるスジアラは五島列島から届いたもの。獲ってすぐに放血神経締めにして、1週間ほど熟成。臭みはなく、旨みが強い。手前は焼いた皮を凝らせたもの
焼きそばがき(1200円)
メレンゲのようにふんわりと仕立てた絶品のそばがき。醤油を塗って香ばしく焼き上げれば、そばがきの新たな魅力が見えてくる

最後はしなやかな蕎麦で〆て気分は上々。寒い冬の夜にも、駅へとたどる道々は口福の余韻に包まれて、心はじんわりと温い。

そばぎり(900円)
北海道摩周湖産の蕎麦は細くてしなやか。時期によっては季節蕎麦も楽しめる
日本酒の銘柄は季節によっても変わるが、料理に寄り添うものが中心 
『潮』

[住所]東京都国分寺市西元町2-18-11
[電話]042-359-2898
[営業時間]11時半~14時LO(土~15時LO)、17時~21時(20時半LO)
[定休日]火(祝日の場合は翌日休)
[アクセス]JR中央線ほか西国分寺駅南口から徒歩7分

『すぎやま』@洗足

きれいな料理と酒、蕎麦でゆったり寛ぐ住宅街の隠れ家

ハタハタ天ぷら(850円)
ハタハタ丸ごとを豪快に味わう天ぷら。頭、卵、身は揚げ方を変えてそれぞれの持ち味を引き出している。塩でさっぱりと

和食の修業から料理の道へ入ったという杉山さん。豊洲市場へ出かけ、旬のいいものを探し出すのは習慣だ。
その甲斐あって、あん肝や白子といった冬の高級食材も、財布に優しい価格帯で出せる。

酒のあて三種(1200円)
『すぎやま』の料理は2人前が基本。まずはすぐに出る酒肴を頼んでゆったりと料理を待つのもいい。半生の自家製からすみ、ミルキーなあん肝、ふっくらと炊いたもろこなど

大きなハタハタの天ぷらは、頭、身、卵を別々に揚げるが、それを丸ごと一尾分、ドンとひと皿で。根菜の炊き合わせは、ポトフのように大きくカットして大皿に盛る。素材を慈しみ、丁寧に調理する料理だからこそ、あえて余分なものは削ぎ落とした直球勝負だ。

エアポケットのように静かな半地下の店も居心地がよく、この料理と酒、そして蕎麦でゆるりと過ごすにはうってつけ。

根菜の炊き合わせ(1200円)
大ぶりにカットした根菜は野菜本来の味を生かした薄味。ニンジン、大根、カブ、手前は小松菜の根っこだ
つやつやの黒豆は丹波産の大粒。火加減を調節しながら3日かけてゆっくりと火を入れている
日本酒はお燗にして味わいたい食中酒が揃う
せいろ(940円)
写真の蕎麦は福井の農家で栽培されたもの。殻まで含めた挽きぐるみで蕎麦の香りや風味を感じさせる。蕎麦は1人前
『すぎやま』

[住所]東京都目黒区洗足2-23-10 地下1階
[電話]03-3788-6938
[営業時間]11時半~14時LO、17時半~21時(20時半LO)
[定休日]水、第3木、不定休あり
[アクセス]東急目黒線洗足駅から徒歩1分

『蕎麦Sycamore』@世田谷

牡蠣の揚げ出し 春菊と生のりのあんかけ(1300円)
旬の大ぶりの牡蠣をさっと揚げて揚げ出しに。春菊と生海苔を使った香りのいいあんが日本酒によく合う

食いしん坊の心をくすぐる料理と多彩な酒を味わう

「あれもこれも食べてほしいと思ったらどんどん料理が増えてしまって」と話す店主の小川さん。

いや、その通り(笑)。旬の食材が主役の「本日のおすすめ」は超魅力的で、フルーツを上手に使ったものや市場で買いつけた魚介などが並び、目移りしてしまう。

上から、あん肝ずわい蟹白菜ポン酢ジュレがけ(1400円) ずわい蟹と洋梨の酢の物(800円)
上は、あん肝とズワイガニという豪華食材に白菜ポン酢ジュレをかけてさっぱりと。ポン酢の酸味がズワイガニとぴったり合う。下はズワガニと洋梨を合わせて酢の物に。モダンな組み合わせをオーソドックスな酢の物でまとめた楽しい料理
秋サバとおぼろ昆布と九条ねぎの春巻き(1100円)
パリっと揚がった春巻きの中には脂がのった鯖、おぼろ昆布、九条ねぎが入っている。新潟・笹川流れの藻塩をつけて熱々にかぶりつきたい

さらに定番メニューを開けば、蕎麦屋らしくだし巻きや天ぷら、ポテトサラダと盛りだくさん。
これは食いしん坊にはたまらない!

日本酒はもちろんワインやビール、焼酎など酒のセレクトもいいので、好きなものを好きなように飲めるのがうれしい。

〆はお腹いっぱいでもするりと入る、軽やかなせいろを。

せいろ(850円)
取材日の蕎麦は埼玉県三芳町のもの。刈り取りを手伝いに行くこともあり、近隣の農家の蕎麦を使うことも多いという
『蕎麦Sycamore』

[住所]東京都世田谷区世田谷3-3-1 COMS Setagaya 地下1階 
[電話]03-6413-5653
[営業時間]17時~23時
[定休日]月、第1・3火※不定休あり
[アクセス]東急世田谷線上町駅から徒歩1分

『ふるまい蕎麦 ふる井』@練馬

よくばり六彩盛り(1400円)
蕎麦の実とろろ、いかの塩辛、焼き味噌、板わさ、蕎麦豆腐、鴨ローストと蕎麦前の定番が揃ってリーズナブル。これだけで2合は飲める!

一つひとつ丁寧に仕上げた季節の味覚で誰もが笑顔に!

店を構える際、「3世代が楽しめる陽だまりのような店」を目指したという店主の古井さん。
その言葉通り、いつも楽しそうに寛ぐお客さんの笑顔が絶えない。

メニューの多彩さにも驚かされる。板わさや蕎麦豆腐など、蕎麦屋らしい料理はもちろん、12月であれば、ぶり大根、のど黒の天ぷらなど、“時季の味覚”の品書きもずらり。これが季節感抜群で年6回変わる。

だし巻き玉子 (750円
品のいいダシ感でふわりと優しい
れんこんの一味焼き醤油風味(650円)
季節の味覚のひとつ。かえしとみりんを使い、ピリ辛。シャキシャキの食感がいい

そして手打ちの蕎麦もブレのない美味しさ。石臼挽き十割の粗挽き蕎麦は、細打ちで艶やか。噛めば心地よく香りが広がる。二八のかけ蕎麦ののど越しや汁の旨さにもほっとする。あれこれゆっくりとつまんだ後のお楽しみだ。

かけ蕎麦(700円)
ツユは薄口醤油で仕上げられ、ふわりとダシが香る
十割蕎麦(数量限定 800円)
この日の蕎麦は北海道産。挽きぐるみで少し星が入った十割。艶やかでみずみずしく、もちもち。本枯れ節を使ったつゆでズズッとやると、後からほどよい挽きぐるみ感も
蕎麦前にぴったりな日本酒も充実。右から「澤屋まつもと 純米」「菊姫 にごり」「篠峰 純米吟醸生」
『ふる井』
店内は居心地よく落ち着いた佇まい

[住所]東京都練馬区豊玉中2-6-5
[電話]03-3992-9480
[営業時間]11時半~14時半(14時LO) ※土・日・祝~15時(14時半LO)、17時半~21時(20時LO) ※水は昼のみ
[定休日]木
[アクセス]西武池袋線練馬駅から徒歩12分

『手打ち蕎麦 ほかげ』@荏原町

上から、牡蠣味噌小鍋(1000円) 鱧板(700円)
鍋はコクと丸さの塩梅が抜群な味噌仕立て。ささがきゴボウや麩。ふっくら大ぶりな牡蠣はジューシーで口に磯の香りと旨みが溢れ出す

しっぽり昼酒もよし 普段使いしたい大人の蕎麦屋

「しっぽりお酒とおつまみを楽しんでいただける大人の蕎麦屋」にしたいのだと店主の手塚一人さんは言う。
その通り、昼時でもひとりちびりと昼酒を楽しむお客さんの姿も多い。

「本日のおつまみ」と書かれた品書きには、実際、ちょっと堪らないメニューが並ぶ。
蕎麦屋にしてほぼ欠かさず白身魚の刺身や〆鯖があり、「他のものも食べられるように」と小鍋があるのもニクイ。

鴨ロース煮(1350円)
絶妙な火の入り加減。旨みが滲み出る
上から、〆鯖・活け〆天然平目刺身(時価) 自家製牡蠣オイル漬け(900円)
しっとりとした〆鯖に、濃厚な牡蠣。どちらも酒が進む
小海老かき揚げ(700円)
カラリと揚がったかき揚げはプリプリの小海老がゴロゴロ

「料理と喧嘩しても構わないので僕の好みのものを」と置かれた酒がまた旨みののった精鋭揃い。

左から「玉川 山廃純米無濾過生原酒」「加茂福 純米吟醸無濾過生原酒」「たまか 特別純米」。旨みの強い味わいがつまみとコラボ!

石川県産が多いという〆の蕎麦は二八で、のど越し風味よく、ストンと落ち着く。ちょいちょい覗きたい店だなあ。

うす揚げと九条葱の蕎麦(1400円)
蕎麦は石川県産のものと他の産地のものをひと月ごとに変えて使う。しなやかで喉ごしのいい二八だ。温蕎麦のツユとのバランスも抜群で、たっぷり入った九条ねぎとお揚げで温まる
『ほかげ』

[住所]東京都品川区中延6-1-21
[電話]050-3761-3517
[営業時間]月~金11時半~14時(13時半LO) ※金は夜のみ、18時~22時(21時半LO)
土・日・祝11時半~14時半(14時LO)、18時~22時(21時半LO)※定休日前日は昼のみ
[定休日]月(祝の場合は翌火休)
[アクセス]東急大井町線荏原町駅正面口から徒歩3分

撮影/貝塚隆、松永直子(すぎやま)、大西尚明(ふる井、ほかげ)
取材/岡本ジュン、池田一郎(ふる井、ほかげ)

※店のデータは、2022年1月号発売時点の情報です。
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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