市内から山を越えて行く近くて遠い里山の美味
三方を囲む山々が“天然の城壁”の役割を果たすため、千年の都がおかれた京都盆地。東には比叡山、その西側、鴨川の源流付近にあるのが、源義経と関わり深い鞍馬山だ。
では木々が茂るその山を越えた先には?市境からそう遠くはない地に、日本の農村の原風景が残る『美山かやぶきの里』が佇んでいる。
市内から美山に向かう場合、鞍馬方面から抜ける道路は幅が狭いため、国道162号線沿いに西山連峰を突っ切るのが一般的だ。途中、紅葉の名所・神護寺の門前を通り過ぎる。
鮎の漁場として知られる由良川とぶつかれば、目的地は間近。府道沿いに清流を遡ると、国の重要伝統的建造物群保存地区『美山かやぶきの里』にたどり着く。
地元で“北集落”と呼ばれるこの地区では、50戸のうち39棟が茅葺(かやぶき)屋根。中の造りは、『美山民俗資料館』で見学可能だ。茅葺きは、夏は涼しく冬は暖かいが、20年に一度、茅の葺き替えが必要。そのために伝承された茅採集と茅葺きの技術は、2020年、ユネスコ無形文化遺産に登録された。
また集落にはカフェやレストランが点在する一方で、昔からの住民が生活し、里山の日常も垣間見える。
「観光のお客さんに見られながら暮らすのに慣れるまで、集落の方々には大変なご苦労があったと思います。けれども『かやぶきの里』が有名になって、美山が広く海外にも認知されるようになりました」
と、今宵筆者が宿泊する『枕川楼』の女将・長野綾子さん。由良川の支流沿いにあって春は山菜、夏は鮎、秋は松茸、冬はジビエなど、美山の旬が味わえる料理旅館だ。
到着したら、まずひと風呂。露天からは森林の緑が眺められ、川のせせらぎが聞こえる。お湯は谷の天然水を利用したもので、身体の芯までポカポカに。湯上がりに部屋で寛げば、「『ここは、何もないのがいい』と、お客さんによくいわれます」との女将の謙遜にも納得の、心にしみ入る静けさなのだ。
夕食は美山が誇る「京地どり」のさまざまな部位が楽しめるすき焼きを。ほどよく締まった身はコクがありながらもあっさりとして、同じ地鶏の卵に浸せば、いい塩梅の旨み×旨みだ。
美山の野菜、山菜、川魚などを盛り込んだ前菜も、丁寧に調理された料理ばかり。また京都府北部エリアの地酒、焼酎、ワインなども揃っていて、まさしく京都市内では体験できない、森の京都尽くしの晩餐だ。
朝食の主役は、客の目前で仕上げる地鶏の玉子雑炊。美山野菜のおかずや、美山牛乳ヨーグルトなども付く。「味噌やジュースなど、できるものは手作りで」というのは女将の言葉。
心尽くしの里山の美味で、身も心も満たされた心地がした。
枕川楼(ちんせんろう) 南丹市【料理旅館】
[住所]京都府南丹市美山町中上前26
[電話]0771-77-0003
[宿泊プラン]1泊2食付 1名1万6500円~
[交通]南丹市営バス美山園部線知見口から徒歩1分
撮影/西崎進也、文/岡野孝次
※データは、2022年4月号発売時点の情報です。
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