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鰻が焼けるのを待つ間の一品が、キャベツの浅漬け

そんな時間を潰してくれるのが、鰻屋のお品書き。「とりあえず、ビールと肝焼き」はお約束でしょうね。鰻を卵焼きで巻いた「う巻」を頼む方もいらっしゃると思いますが、肝焼き→う巻→鰻重では、たんぱく質ばかりじゃないですか。

そこで先人は考えたのでしょう。東京・神田に本店のある老舗の鰻屋KKには、そんな食べる側の心理をついた人気メニューがあるのです。その名も「キャベジン」。胃腸薬ではなく、キャベツの浅漬けです。

鰻の老舗、神田きくかわの「キャベジン」

じつは、キャベツときゅうりの浅漬けなのですが、キャベツ率は90%ほど。ほぼキャベツの浅漬けと言って間違いないでしょう。こいつがたまらなくうまい。正確にいうと、刻んだ大葉も入っていますし、付け合わせに真っ赤な茎わかめも添えられています。梅酢味です。

こんなキャベツの浅漬けをつつきながらながら、ビールとともに鰻を待つ時間は至福のひととき。「キャベジン」はかくも偉大な鰻屋の一品であり、オイラの条件反射行動である「キャベツ→鰻」に結びついていたということです。

この「キャベジン」、老舗KKの都内にある支店(日比谷、上野毛)でも提供されていて、値段こそ異なるのですが、お味は一緒。じつに完成度の高い鰻屋の一品なのです。それゆえ、夏も春も安定の味わい。おそらくは、通年出回るキャベツで作っているのではないでしょうか。

「こいつをやわらかな春キャベツで作ったら、さぞうまいのでは……」

と、ジジイに妄想が芽生えたのは、10年ほど前です。キャベツは1年中ありますが、通年で出回る夏キャベツと、春に出回る春キャベツ(新キャベツともいう)とでは、実際、種類も産地も異なるのだそう。

いつものキャベツ(夏キャベツ)は巻きがしっかりしていて、葉は薄い緑色、というかキャベツそのものの色ですよね。生でもおいしいのですが、加熱するほどに甘みが増すらしく、煮込み調理に適しているとのこと。ロールキャベツがおしいそのはそういう理由だったのですね。(参考文献/カゴメ株式会社VEGEDAY「野菜の栄養・効果」)

対して春キャベツは巻きがゆるく、色も黄緑色で葉がやわらかでみずみずしい。まさに浅漬けのためのようなキャベツだったのです。以来、春から初夏の間、オイラはキャベツの浅漬けを春キャベツで作るようになりました。大好きな鰻屋に敬意を払いつつ、春の訪れに感謝するこの頃です。

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「春キャベツの浅漬け鰻屋ふう」の作り方...
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この記事のライター

沢田浩
沢田浩

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