兵庫・姫路といえば、世界遺産・姫路城。食べ物の名物だと「明石焼」が思い浮かぶところでしょう。しかし今、当地の駅弁メーカーが「穴子めし」を名物にしようと取り組んでいます。しかも、それが驚きの美味しさなのです。
画像ギャラリー穴子といえば、江戸前寿司に用いられる東京湾や広島・宮島、筆者が暮らす愛知県・三河湾が有名だ。兵庫県姫路市の駅弁メーカー「まねき食品」が、細部にわたってこだわり抜いた「穴子めし」を新たな姫路名物にしようと取り組んでいる。
「昔から姫路では瀬戸内で獲れた穴子をよく食べていました。しかし、他の地域と違って専門店がなかったんです」と話すのは、まねき食品の竹田典高社長だ。
地元産の食材をふんだんに使ったコースに舌鼓
まず、竹田社長に案内されたのは、JR姫路駅と姫路市役所の中間に位置する『日本料理 竹善』。「竹」を冠している店名からもわかるように、ここはまねき食品が経営母体。播磨灘で獲れた魚介をはじめ、地元産の食材をふんだんに使った料理が楽しめる。
カウンターの向こうで腕を振るうのは、25歳の若き料理人、立花一樹さん。16歳のときからここで修業し、努力に努力を重ねて2年前に料理長まで上り詰めたという竹田社長の秘蔵っ子だ。
メニューはコースが中心で、「松コース」(5500円)と「月コース」(8800円)、「花コース」(11000円)などを用意している。
「月コース」の主な料理を紹介しよう。まずは、「八寸」。内容は、蕗の薹葛豆腐、もも肉ローストビーフ、菊菜と赤こんにゃくの白和え、カステラ玉子、煮穴子小袖鮨、瀬戸内穴子煮凝り、牛蒡の春巻き、坂越の蛸やわらか煮。
どれも丁寧に作られていて、酒がすすみそうだ。ちなみにこの日は新型コロナの蔓延防止措置の期間中だったのでノンアルコール。これからの季節はキリッと冷やした冷酒とともに楽しみたい。
こちらは、温物の「赤穂坂越の牡蠣 白味噌グラタン」。兵庫県赤穂市のブランド牡蠣と相性の良い白味噌を用いてグラタン仕立てにしたひと品。このように、日本料理の伝統と格式を重んじながらも、コースの中に遊び心を採り入れたひと品を加えているのが立花さんの料理の特徴だ。
いちばん感動したのは、コースの〆に出された「穴子天ご飯」。土鍋で炊き上げたご飯に肉厚な穴子の旨みと香りを閉じ込めた天ぷらをのせている。名古屋のひつまぶしのように、穴子天とご飯をよく混ぜて食す。
穴子のとろけるような食感とともに上品な味わいの脂が口の中で溶け出して、ご飯の甘みと一つになる。これがもう本当に旨すぎて何度もおかわりしてしまった。「八寸」の穴子小袖鮨といい、穴子煮凝りといい、穴子の美味しい食べ方を熟知していると思った。
余韻に浸っていると、立花さんがテイクアウトやお土産で人気の「穴子鮨」を持ってきてくださった。蒸しと焼き、2種類の穴子を一度に楽しめるのである。
これも食べさせてもらったが、蒸し穴子はしっとりとした食感の中に穴子の繊細な脂の旨みを感じた。一方、焼き穴子は何といっても香ばしさ。噛むごとにジューシーな旨みを堪能できた。
「弊社の商品にも大ぶりな穴子を丸ごと1本使用した豪快な『名代あなご寿司』があります。穴子は焼いてから自家製のタレで煮ているのですが、実は出来たてが本当に美味しいんです。注文ごとにその場で作ることができたら……と考えていました。まぁ、詳しくは明日、ご案内しますよ」と、竹田社長。
1年もの月日を費やして誕生した「たけだの穴子めし」
翌日、指定された場所へ行ってみると、そこにあったのは『たけだの穴子めし まねき本店』。
店名の通り、永年にわたって作り続けてきた「名代あなご寿司」の製法を受け継ぎ、さらにブラッシュアップさせた穴子めしの専門店である。メニューは「たけだの穴子めし」(1998円)と「たけだの穴子めし(小)」(1404円)のみ。そこに穴子めしに懸けるまねき食品の意気込みを感じる。
「駅弁屋が作る最高峰のお弁当を目指して1年を費やして作りました。まずは食べてみてください」と、竹田社長も自信たっぷり。そこでお店のスタッフさんが穴子めしを作っているところを見せてもらうことに。
使用するのは、大ぶりで肉厚の穴子。まずは白焼きにした穴子を軽く炙る。店内は香ばしい匂いが立ち込め、食欲がそそられる。そのまま塩を振ってかぶりつきたくなる衝動をグッと抑えて、次のプロセスに。
焼き上げた穴子を、穴子の頭と尾からとったダシを煮詰めた自家製のタレで煮込む。あまり煮込みすぎると崩れてしまうので、鍋から引き上げるタイミングの見極めが必要となるが、スタッフさんにとっては手慣れたもの。
サッと引き上げて、熱々の穴子にタレを塗ってから包丁で切り、ご飯の上にのせていく。ご飯は特注の羽釜で炊いた兵庫県産の「きぬむすめ」。その上から兵庫県西脇産の金ゴマ「金播磨」を振り、芳ばしさと食感を生み出している。
最後に、奈良漬けとしば漬け、生姜漬けの三種の漬物を添えて完成。石臼挽きの紀州産ぶどう山椒とタレが別添えされる。
穴子とご飯というシンプル極まりない弁当だが、食べてみて驚愕。穴子はふんわりと柔らかく、炭火で焼き上げた香ばしさもほんのり。日本人であれば誰もが好む“甘濃ゆい”味わいにご飯がすすみまくり。
そのまま食べても十分旨いが、ぶどう山椒や漬物三種盛りが味にリズムを与えてくれる。「冷めても美味しく食べられます」(竹田社長)とのことだが、やはり出来たての味にまさるものはない。店頭で受け取ってから1分1秒でも早く食べることをオススメする。
店はJR姫路駅を北へ1分。姫路への出張帰りに立ち寄って新幹線の車内で楽しむのもよいし、姫路駅から姫路城に向かう途中で購入し、お城を眺めながら食してもよいだろう。
また、2022年3月18日には大阪の阪神百貨店梅田本店地下1階阪神食品館に弁当専門店『たけだの穴子めし』がオープン。こちらでは、穴子めしの他に穴子のにぎり寿司や巻寿司も用意している。
「催事で穴子めしを提供させていただいたところ好評で、阪神百貨店様からの要請もあって出店を決めました。大阪初出店を機に『たけだの穴子めし』が姫路にとどまらず、関西の名物となるよう、これからも丁寧なお弁当作りを心がけてまいります」と、竹田社長。このクオリティなら、夢に終わることはないだろう。
■『日本料理 竹善』
[住所]兵庫県姫路市三左衛門堀東の町52
[電話番号]079-223-0331
[営業時間]11時〜14時(13時半LO)、17時〜22時(20時半LO)
[休日]第1・3火
■『たけだの穴子めし まねき本店』
[住所]兵庫県姫路市駅前町363-1 フェスタビル南館1階
[電話番号]079-223-8652
[営業時間]9時〜20時
[休日]不定休※フェスタ南館に準ずる
取材・撮影/永谷正樹
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