9割はどうしたら売れるかを訊きたがる
50代半ばくらいから、ぼくは自分を育ててくれた音楽シーンに何か恩返しできないかと考えた。そして、まだ無名のインディ・ミュージシャンたちの音源を聴いて電話でアドバイスしたり、ラジオなどで紹介することを始めた。話をすると、多くの無名ミュージシャンが望んでいるのは売れることだった。売れるためにどうしたら良いか質問してくる人が実に多い。すでに1000人以上の人と電話で話したが、9割はどうしたら売れるか訊きたがる。
自分たちの作った音楽が世に認められたい気持ちは分かる。しかし売れること以上に大切なのは、横山剣の言うように何が何でも音楽をやり続けるという根性で、売れる売れないというのは結果に過ぎない。横山剣だけでなく、この連載で紹介したミュージシャンは、誰もが売れることより音楽をやり続けることを大切にしていた。
“とにかく音楽が好きなんですね。いつも聴いてます。そして音楽を聴くと何かしら発見することが多いんです。うまく言えないんだけど、このミュージシャンはだからこういう曲にしたんだとか、こういう演奏にしたんだとか、音楽の中に入っている核みたいなものに自分なりに気付くことがあるんです。そういうのが分かったり、見つけた時は嬉しいですね。そういう気持ちは音楽を聴き始めた頃から変わってません。もしかしたら、自分の作る音楽も人をそういう気持ちにさせてくれるかも知れない。そう思えるからずっと音楽を作り続けているんでしょうね”
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。