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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。クレイジーケンバンドのリーダー、横山剣の最終回は、筆者が選ぶベスト3を紹介します。その3曲は、想定内か、予想外か。横山剣が少年時代に出逢った傑作アルバムの挿話とともにお楽しみください。音楽的ルーツに触れるお話です。

『円楽のプレイボーイ講座12章』 ジャケットは、松岡きっこ

横山剣のファンには有名なのが、彼の音楽的ルーツが『円楽のプレイボーイ講座12章』というレコードにあることだ。五代目三遊亭圓楽がプレイボーイについて語ったアルバムだ。バックのサウンドは前田憲男とプレイボーイズ澤田駿吾、日野元彦などといった一流ジャズ・プレイヤーが参加していた。

ジャケットは当時、人気だった松岡きっこのセクシー・ショット。いわゆる冗談ミュージックなのだが、音楽は1990年代に流行した渋谷系のミュージシャンやそのファンが好んだラウンジ・ミュージックそのものだった。発売は1969年だ。

数年前、ぼくがDJをしていたFM番組に横山剣がゲスト出演してくれた。そのコーナーにはゲストが好きな曲をかけて語るパートがあった。横山剣は『円楽のプレイボーイ講座12章』から選曲した。

“まだ10歳くらいの頃、露天商のアルバイトをしてこのアルバムを知ったんです。売れ残ったレコードの1枚として貰ったんだけどジャケットはボロボロだしレコードも傷だらけで聴けませんでした。それからすぐに離れて暮らしていた父の処に遊びに行ったらこのレコードが綺麗に保存されてあったんです。ジャケットを見て、まだできる歳じゃなかったのに下半身が疼いたりして。何かいけないものを見ちゃった気がしましたね。で、恐る恐るレコードをかけたら、それはもう、ものすごくカッコいい音楽でぶっ飛びました。このレコードに出逢わなかったら、ミュージシャンになってたか分かりませんね”

ジャズ、ソウル・ミュージック、そして歌謡曲から吸収した日本的情感

その出逢いの後、横山剣は音楽を吸収してゆく。クールスRCでジェームス藤木に出逢ったことも、その音楽性にプラスした。横山剣~クレイジーケンバンドの根底にあるのは、サウンド的にはジャズ、ソウル・ミュージック、そして歌謡曲から吸収した日本的情感だ。その世界はユーモア、喜怒哀楽、庶民感情、人生を笑い飛ばして生きるという意味での遊び人的感性に支えられている。

さらに音楽全体には汎アジア的なイメージも加えられる。また彼が愛して住み続ける、横浜という街が持つ独特なムードも時として顔を見せる。ただ、それも港町、エキゾチックな魅力などといった表向きに多くの人が感じる顔でなく、そこに暮らす精神的マイノリティな人々にスポットを当てる場合が多い。

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岩田由記夫
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