季節はすっかり初夏である。新型コロナの感染拡大に配慮しつつ、外出する機会も増えたと思う。電車での旅や出張の楽しみといえば、駅弁だ。日本全国、数ある駅弁の中で一日約2万7000個を販売する日本一の駅弁をご存知だろうか。 横…
画像ギャラリー季節はすっかり初夏である。新型コロナの感染拡大に配慮しつつ、外出する機会も増えたと思う。電車での旅や出張の楽しみといえば、駅弁だ。日本全国、数ある駅弁の中で一日約2万7000個を販売する日本一の駅弁をご存知だろうか。
横浜・崎陽軒の「シウマイ弁当」は名実ともに日本一
それは、横浜・崎陽軒の「シウマイ弁当」。筆者は愛知県在住だが、コロナ前まで年に数回は東京へ訪れていた。帰りの新幹線で食べるのは、決まってシウマイ弁当だった。
メインのおかずである「昔ながらのシウマイ」は、国産の豚肉にオホーツク海産の干し貝柱を加えているのが特徴だ。それぞれの旨みを引き立て合う味わいに仕上がっていて、冷めても美味しく食べられるのである。
シウマイ以外にも鮪の漬け焼、蒲鉾、鶏の唐揚げ、玉子焼き、筍煮、あんず、切り昆布、千切り生姜と、おかずが盛り沢山。この内容は、2003年から変わっていないという。
「少しマニアックな話になりますが、2010年に蒲鉾の厚みを1ミリ増やしました」と、話すのは崎陽軒の広報・マーケティング部の西村浩明さんだ。
おかずの内容は変わってなくても決してそれがゴールではなく、常に見直しているからこそ、日本一の駅弁として君臨しているのだろう。
そんなシウマイ弁当だが、まずはおかずの半分ほどをつまみにビールを楽しむ。シウマイは言うまでもなく、鮪の漬け焼や鶏の唐揚げもビールに合うのだ。残り半分でご飯を食べる際におかずとしてポテンシャルの高いタケノコ煮を多めに残しておくこと。これが筆者流のシウマイ弁当の楽しみ方である。
関西のダシ文化にこだわった姫路・まねき食品の「関西シウマイ弁当」
シウマイ弁当といえば、JR姫路駅や大阪・梅田の阪神梅田本店では“幻の駅弁”と呼ばれるほど入手困難な駅弁が売られているらしい。それが姫路・まねき食品の「関西シウマイ弁当」である。
はじめて見たときに「うわっ、まねき食品がやらかしたー!」って思った人もいるかもしれない。何しろ、パッケージのデザインからおかずとご飯の配列まで崎陽軒のシウマイ弁当とソックリなのだから。しかし、関西シウマイ弁当は崎陽軒との正式なコラボだという。そりゃそうだ(笑)。
「2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けた駅弁業界から経済を活性化できないかと、崎陽軒の野並直文社長にシウマイ弁当とのコラボレーションを直談判したんです」と、まねき食品の代表取締役社長、竹田典高さん。
崎陽軒はこれまで食品会社や同業の駅弁メーカーとのコラボは、ほぼ前例になかったが、横浜と姫路それぞれの地域を盛り上げることができるとオファーを快諾。メインのシウマイの製造を崎陽軒が、それ以外のおかずとご飯をまねき食品が担当することとなった。
「関西シウマイ弁当のシウマイは、関西のダシ文化にこだわりました。カツオや昆布でとったダシを豚肉に加えて、さらに、シャキシャキとした食感が楽しめるように刻んだレンコンも混ぜています」(西村さん)
一方、まねき食品も長年にわたって培ってきた駅弁作りの技術を余すことなく投入している。シウマイ弁当と共通する鶏の唐揚げと玉子焼き、タケノコ煮はシウマイと同様に、ダシの旨みを存分に味わうことができるように仕上げている。
「鶏の唐揚げの下味にすっきりとした味わいのあごダシと地元の老舗醤油メーカー、ヒガシマルの淡口醤油を使っています。玉子焼きはカツオと昆布のダシを使った出汁巻き玉子で、筍煮は弊社が姫路駅構内などで手がける『駅そば』に使用するカツオ節やサバ節でとったダシで味付けしています」(竹田さん)と、おかずごとにダシを使い分けるこだわりぶり。
シウマイ以外のおかずやご飯にも並々ならぬこだわりがギッシリ
他にもシウマイ弁当の鮪の漬け焼は鯖の幽庵焼、あんずは甘塩っぱく煮た黒花豆煮に。こだわりは細部にまで及び、切り昆布と千切り生姜が酢レンコンと柴漬けに、俵型のご飯の上にのる黒ゴマと青梅干が関西で好まれる白ゴマと歯応えの良い赤梅干になっている。
試作と試食を繰り返し、半年ほどかかってすべてのおかずが決まった。これでやっと販売できると思いきや、最後にして最大の難関はご飯の炊き加減だった。一般的に関西では少し柔らかめのご飯が好まれるのに対して、関東は逆。ややかために炊いた方が好まれるので、お米のかたさは最後まで苦労したという。
崎陽軒は高温の蒸気でご飯を炊き上げる独自の「蒸気炊飯方式」を採用し、もっちりとした食感とお米そのものの旨みを最大限に引き出している。それを再現すべく、姫路の自社工場で試行錯誤を重ねた。
「炊き上げたご飯を持って崎陽軒様を訪ねるのですが、なかなかOKが出ませんでした。試作を重ねる中で水分量を極限まで減らして炊くことで食感と旨味を最大限に引き出すことができました。OKが出たときはうれしかったですね」(竹田さん)
2021年11月、姫路駅の新幹線改札手前にある中央売店にて1日100個限定で販売を開始。現在は駅構外の「えきそばピオレ姫路おみやげ館店」やまねき食品本社前のドライブスルー店でも購入できる。
さらに2022年4月からは大阪・梅田の阪神梅田本店地下1階でも販売している。生産量が少ないため、いずれの売り場でも売り切れ必至だ。
老舗中華惣菜店の名物を駅弁にした名古屋・松浦商店の「おなじみの味焼売弁当」
実は筆者が暮らす名古屋にもシウマイ弁当、いや、“シウマイ”というのは崎陽軒独自の呼称なので、焼売弁当と表記するのが正しい。名古屋駅でも焼売弁当が売られている。それが松浦商店の「おなじみの味 焼売弁当」だ。
松浦商店といえば、昭和29年創業の老舗中華惣菜店『寿屋』を子会社化したという話をこの『おとなの週末web』でも紹介した。
「おなじみの味 焼売弁当」は、寿屋の名物である焼売を松浦商店が創業以来100年にわたって蓄積してきた駅弁作りのノウハウを詰め込んだ究極のコラボ商品なのである。
「寿屋を子会社したのは、名物となる商品を作りたいという思いからでした。その第一号として『おなじみの味 焼売弁当』を作りました」と、松浦商店の専務取締役、松浦浩人さん。
パッケージを開封すると、大ぶりな焼売が目に飛び込んでくる。前出の崎陽軒やまねき食品のそれよりもかなり大きい。聞いてみると、1個あたり30グラム前後もあるという。これが6個も入っているので、焼売だけで計180グラムにもなる。これは食べごたえがありそうだ。
レギュラーとエビ、カニの3種類の焼売
しかも、焼売はレギュラーとエビ、カニの3種類の味を用意。まずはレギュラーからいただくとしよう。うん、これこれっ! 本場中華の味を追い求めたのではなく、ご飯に合う惣菜としての焼売。豚肉の旨みと玉ネギの甘みが絡み合う素朴な味わいに思わず心が和む。
一方、エビ焼売は干しエビの香りと旨みをギュッと凝縮。くぅ~っ! 旨いなぁ!! ご飯にも合うだろうけど、口の中いっぱいに広がったエビの風味をビールで洗い流したくなる。
それは、ズワイガニをふんだんに使ったカニ焼売も同様だ。スゴイと思ったのは、冷めても肉の旨みやエビ、カニの風味が存分に味わえるということ。それだけ食材や製法にこだわっているのだろう。
「鶏肉や豚肉、野菜など食材はすべて国産です。自社工場で挽きたての肉と、しっかりと脱水した野菜と混ぜ合わせて作った餡を自社製の皮で包んでいます。大粒で皮は極薄、というのが弊社の焼売の特徴です。『おなじみの味 焼売弁当』は、焼売を存分に味わってほしいと思い、あえてご飯を少なめにしました」と、松浦さんは言うが、焼売以外のおかずも玉子焼きや蒲鉾、煮物と、駅弁の基本はしっかりと押さえている。
とくに煮物は、タケノコと里芋、ニンジン、椎茸、蕗(ふき)と盛りたくさんで、箸休めにはぴったりだ。
なお「おなじみの味 焼売弁当」は、名駅一丁目の『焼売餃子の寿屋』近鉄パッセ店で販売している。
今回、3種類の駅弁を紹介したが、現在も新型コロナウイルスの感染状況は、まだまだ予断を許さない状態にある。感染拡大の防止に配慮しながら旅を楽しもう。
取材・撮影/永谷正樹
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