砥石を平らにする意外な方法とは!?
包丁で指を切るのは若い者にかぎった話じゃありません。ベテランだって切るときは切ります。ですから、板場で包丁を握っている親方の後ろを黙って通ると、火が出るほどこっぴどく怒られたものです。ちょっと肘が触れただけで手元が狂って切ることもありますから、板場にはピンと張りつめた緊張感がありました。
包丁の話をするなら、砥石のことにも触れておかなければなりません。
包丁と同じくらい大事なのが砥石。昔は何万円もするブランドの砥石を使う板前もいましたが、人工砥石というものが出回るようになってからはめっきり少なくなりました。安くてよく研げるものですから、みんな使い始めたわけです。
砥石に求められる〝条件〟は、平らであること。一部が窪んでいたり山になっていたりすると、研ぎムラができて刃先が真っ直ぐになりません。刃先が真っ直ぐじゃないと、切り残しができたりしてまともな料理にならないのですから、これ以上大事なものもありません。
砥石を平らにするために、私は店先のコンクリートで砥石を研ぎます。3日に1度くらいの間隔で、砥石を濡らしながら道に座り込んでゴリゴリ擦り付ける。こうすると見事に平らになります。普通の家庭でも試してみる価値はあると思いますよ。
夏にオススメの旬の味
新型コロナウィルスの感染拡大による自粛生活が始まって、3度目の夏がやってきます。
まん延防止等重点措置が解除されて、だいぶ時間も経ちましたが、客足はなかなか元には戻りません。地元の深川でも、この間に商売を畳んだ店も決して少なくはありません。私らも、お上の方針に粛々と従いながら、なんとかぎりぎりの状態で凌いできました。
だからといって泣き言をいうのは男としてできる話じゃない。一寸の虫にも五分の魂、顔で笑って心で泣いて、武士は食わねど高楊枝ってな心意気です。組織に属している方々とちがって、こちらは自分のケツは自分で拭かなきゃなりません。「ふざけんな、この野郎。べらぼうめえ」ってなもので、毎日店を開けているというのが正直なところなんです。
それでも人生、悪いことばかりじゃありません。悪いことの後には必ずいいことがやってくるものです。夏から秋にかけては季節もよくなり、食べものも美味くなる。脂の乗ったサバはもちろん、茄子や胡瓜、茗荷も格別です。なかでもオススメしたいのが谷中生姜。昔は赤い部分の皮を剥がして湯がき、棒生姜にして甘酢に漬けていました。今の寿司屋の生姜といえば、薄く削ったガリですが、かつてはこの棒生姜を出していたものです。
今の甘酢は昔よりも甘くて食べやすくなっています。どちらが美味いのかというのは好みにもよりますが、個人的には砂糖の少ない甘酢で仕込んだ生姜の方が好きなんですがね。
(本文は、2012年6月15日刊『寿司屋の親父のひとり言』に加筆修正したものです)
すし 三ツ木
住所:東京都江東区富岡1‐13‐13
電話:03‐3641‐2863
営業時間:11時半~13時半、17時~22時
定休日:第3日曜日、月曜日