「かわいさ」に魅了された 「アザラシの赤ちゃんみたいな小鳥」
撮影しても、掲載時には写真に込めた意図が伝わらないというジレンマ。そんな煩悶する日々を過ごしていたある日、同じ報道カメラマンからふと見せられたアザラシの赤ちゃんの写真に惹かれます。1990年、カナダまで出かけて、実際に撮影してみると、そのあまりにもかわいい姿にすっかり魅了されてしまいます。刊行した写真集は大ヒット。“動物写真家”小原玲の誕生でした。
小原さんはある日、電車の中で偶然、自身が撮って雑誌に載ったアザラシの赤ちゃんの写真を切り取って見ている女性に出くわします。報道写真ではうまく受け止めてもらえなかった撮影者の意図。しかし、「かわいい」はストレートに伝わるのだと、自信を深めたそうです。
「アザラシの赤ちゃん」ブームを生み出した後に、数々の動物を経て、特に魅せられた被写体が「シマエナガ」でした。2016年秋には、写真集『シマエナガちゃん』(講談社ビーシー)を発表。シマエナガに関する本格的な写真集はこれが初めてで、現在まで17刷というロングセラーとなりました。
シマエナガは白い顔が特徴的な体長14cmほどの小鳥。北海道に暮らす「エナガ」の亜種です。小原さんの興味がシマエナガに向かうきっかけは何だったのでしょう。『シマエナガちゃん』のあとがきで、自ら理由をつづっています。
「タンチョウの撮影のために訪れていた北海道で、写真を見せてもらったのが出会いであり、第一印象は『アザラシの赤ちゃんみたいじゃないか』でした。今年は暖冬でカナダの流氷が少なく、27年間続けているアザラシの赤ちゃんの取材ができないことが確定していました。そこで『それなら、このアザラシの赤ちゃんみたいな小鳥を撮ろう』と思ったのが、シマエナガの撮影を始めたきっかけです」
妻で作家の堀田あけみさんは今回、次のように説明してくれました。
「シマエナガの取材を始めた大きな理由の一つは、私からの意見だったのです。新しく撮る可愛い被写体を探していた小原にとって、アザラシみたいにふわっとして可愛いシマエナガは、もってこいだったと思います。とにかくかわいい。撮り始めたら、すぐに夢中になりました。写真だとサイズ感が分かりにくいですが、小さいのも魅力の一つだったと思います。アザラシは思ったより大きいので、その逆のギャップかと」。娘さんをシマエナガの撮影に連れていくこともあったそうです。
シマエナガの最大の魅力はどこにあるのでしょう。小原さんのあとがきに、その答えがありました。
「早朝から日没まで張り込んだりと、大変なことが多かったのですが、けっして辛くはありませんでした。なぜなら、あの愛くるしい姿に出会えると、それまでの苦労や疲れが一気に吹き飛んでしまうからです。それだけの魅力がシマエナガにはあると感じています」
「思わず『シマエナガちゃん』と呼んでしまう。それほど、表情も仕草もかわいらしい小鳥です」
新型コロナウイルスの感染拡大や戦争など、顔が曇るような暗い世相にあって、こわばりがちな心をやわらげてくれる―――。小原さんが見つめてきた“シマエナガちゃん”の愛くるしい姿は、これからも多くの人の胸を温め、ストレスフルな現代社会の中で一層愛される存在となっていくでしょう。
文/堀晃和
■シマエナガの関連情報
「まるもふっ!~北の天使の写真展~」
堀田あけみさんが教授を務める名古屋市の椙山女学園大学で、小原玲さんが撮ったシマエナガとアザラシの写真を展示します。
【会期】2022年8月1日~10日(土・日休み)
【住所】名古屋市千種区星が丘元町17‐3
【会場】椙山女学園大学学園センター1階
【開場時間】10時~16時
【交通】地下鉄東山線星ヶ丘駅6番出口から徒歩5分
小原玲写真集『シマエナガちゃん』(講談社ビーシー・1430円)
小原玲写真集『もっとシマエナガちゃん』(講談社ビーシー・1430円)
小原玲写真集『ひなエナガちゃん』(講談社ビーシー・1430円)