スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは、高畑勲監督や宮崎駿監督とともに映画史に名を刻む数々のアニメーション作品を世に送りだしてきました。7月1日から東京・天王洲の寺田倉庫で始まった「鈴木敏夫とジブリ展」は、日本が誇る名プロデューサーの背景に迫る展覧会。スタジオジブリの要ともいうべき、鈴木プロデューサーは、どんな少年期を過ごし、出版社の編集者を経て、映画作りに携わるようになったのか。世界に名をとどろかせるスタジオジブリの作品づくりに、どう向き合ってきたのか。本人の半生を振り返るとともに、ジブリ作品の魅力を解き明かす貴重な機会です。
蔵書8800冊を一挙展示
「鈴木敏夫とジブリ展」は、2019年に東京・神田明神で開催され、その後、長崎や京都を巡回。今回は、3年前の東京展にはなかった蔵書の空間に加え、さらに展示品を大幅に増やして、ファンの期待に応えます。
展示されているのは、少年期や青春時代の写真、影響を受けた漫画や書籍、映画関連の印刷物、雑誌「アニメージュ」の編集部時代やスタジオジブリに関する資料など多岐にわたります。1948年に名古屋で生まれ、いわゆる「団塊の世代」の鈴木プロデューサーが、大学入学で上京し、出版社の編集者時代を経て、スタジオジブリのプロデューサーとして歩んできたこれまでの足跡を俯瞰する内容です。
やはり、圧巻は、鈴木プロデューサーが子供の頃から青春時代を経て現在に至るまで読んできた蔵書の公開です。その数は約8800冊という膨大なもの。手塚治虫などの漫画をはじめ歴史本やノンフィクション、文学全集などいろんなジャンルの書籍が本棚に収まっています。
蔵書を展示した広い空間は、鈴木プロデューサーの隠れ家「れんが屋」をモチーフにして作られました、中央辺りには、『千と千尋の神隠し』に出てきた「カオナシ」が、椅子に座って本を開くオブジェも。並んだ書籍のタイトルを眺めているだけでも、想像が膨らみます。アニメーションのプロデュース、アニメ雑誌の編集など手掛けてきた数々の仕事につながる鈴木プロデューサーの思考の過程に触れることができるでしょう。
今回の東京展限定「油屋別館」が登場 『千と千尋の神隠し』の世界を体感!
アニメ雑誌の編集部時代の仕事の様子、スタジオジブリの設立から現在に至る変遷を紹介した展示も大きな見所です。『風の谷のナウシカ』の制作当時の写真が掲示された回廊や、『千と千尋の神隠し』などの作品ポスター、メモなどの貴重な資料も豊富です。『となりのトトロ』のトトロが展示されたコーナーでは、撮影も可能です。
ほかにも、鈴木プロデューサーが少年時代を過ごした自宅の「四畳半の部屋」の再現、大学生時代に観た映画作品を記録したノートや手帳などプライベートに関する展示も充実しています。会場を進めば、本人の人生の歩みを感じ取ることができます。
蔵書の空間を抜けると、『千と千尋の神隠し』の「油屋別館(あぶらやべっかん)」を再現した巨大な空間にたどり着きます。本展の最終コーナーです。赤い提灯が吊るされた光景は、まさに『千と千尋の神隠し』の世界に来場者を誘います。
八百万の神様とともに楽しむ冷やし足湯「せんとうちひろ」(利用は、特典付きチケットの事前購入が必要)は最高の涼感を与えてくれる粋な催し。酷暑のストレスがやわらぎます。
ほかにも、サイネージの前に立つと、画面上にカオナシになった自身の姿が現れる「カオナシなりきりAR」も。今回の展示全てを堪能するには、数時間は必要となる分量です。