本誌『おとなの週末』の連載『往復書簡』でもおなじみ、タベアルキスト・マッキー牧元さんの連載がスタート! テーマは「立ち食いそば」です。初回はマッキーさんが一番通ったお店、東京・中野の『田舎そば さかい』について。通う理由が10項目あると言います。
画像ギャラリー僕は、毎日食べて歩くことにより、日々の糧が得られるという矛盾した生活を送っている。そのゆえ、年間700回ほど外食をしなければならない。
そんな食生活の中で、最も通っている店が『田舎そば かさい』である。立ち食いそば連載第1回は、中野駅北口前にあるこの店を紹介したい。
通う理由は、10項目ある。
- 立ち食いそばのツユは総じて濃い目であるが、それを爽やかにし、後口が心地よくさせる、おろし生姜が置いてある
- 麺が太く、絶妙な食感と食べ応えを生む
- ワカメの質が高い。立ち食いそば屋では、ペナペナのミイラ状となった、存在感が薄いワカメが多いが、ここは、厚くしなやかな徳島産天然わかめで、実にうまい
- ちょいと小腹が空いた時や、二日酔いなど、あまり食欲がない時に最適なハーフがある(二日酔いの時に食べようという魂胆が間違いだが)
- 具をひとつ増やすと、それぞれが10円安くなる
- サービスがいい。立てば水が置かれ、無くなれば直ちに補充される。またカウンターは常に拭かれている
- 夏季の冷やし(プラス50円)は、ぶっかけではなく、冷たいかけ汁がなみなみと注がれる、冷やかけ。こちらの方が断然おいしい。
- たぬきの天かすは、桜エビや青菜などが入って、お得感満載
- 天ぷら類の冷やしは、それぞれの天ぷらを熱いかけ汁にくぐらせてから乗せる。そのため、馴染みが俄然良くなる。
- 吹きさらしの外に面し、席数6席の正統派立ち食いそば屋形状
ベストは、ワカメたぬきである。夏季限定の冷やしワカメたぬきそばもおすすめしたい。
たぬきの上に、おろし生姜をふた匙乗せて、ずるるっとそばをたぐる。天かすがカリッと音を立て、桜エビの香りが抜け、つゆの旨みが食欲を掻き立て、生姜が後口を軽くする。
生姜をワカメの上に落として、ワカメの香りとの相性の良さを確かめ合うのもいい。僕は半分ほど食べたら、「かき揚げお願いします」と、裏技に出る。
温かいかけ汁に潜らせたかき揚げを千切り、蕎麦と一緒にたぐれば、なにか裕福な気分となって、箸を置く。
「ごちそうさん」。
そう告げて、僕は日常へ帰っていく。
立ち食いそばは、最後のこの掛け声が大切だと思う。
取材・撮影/マッキー牧元
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