サンドイッチをテイクアウトして、最後の『アンミラ』をとことん堪能
朝食、パイに続き、欲張った筆者がどうしても味わいたかったのが、「パストラミルーベン」(1320円)。ところが、提供は11時から。店内利用は90分制のため、筆者が滞在できる10時30分までの間にはオーダーできない。でも、コロナ禍でテイクアウト需要は多くの飲食店が対応に慣れているはずだから……。
ダメ元で会計時に「11時に引き取りに来るのでオーダーできないか?」と頼んでみたところ、なんとOK! 閉店を発表してから毎日行列、大忙しにも関わらず、このホスピタリティ。さすが、コーヒーおかわり無料の先駆けの『アンミラ』。感謝である。
テイクアウトボックスを開けると、満腹にもかかわらずスイスチーズのナッツっぽい香りに食欲がそそられた。アメリカ料理らしくライ麦パンのスライスは薄く、表面はカリカリにトーストされていて視覚的にも美味しそう。実際にひと口目から美味しかった。
フィリングは、胡椒がピリリと効いたパストラミビーフ、コクあるスイスチーズ、酸味控えめのザワークラウト。量と味ともにバランスがとれている。ザワークラウトのほのかな酸っぱさが後味さっぱりで、満腹だったはずなのにパクパクと食べられた。提供時間に店内利用できるのであれば、このサンドイッチもぜひ味わっていただきたい。
ところで、筆者が『アンミラ』を訪れたのは、広尾店が閉店して以来のこと。16年ぶりか、それ以上になるが、当時の印象と変わらないと思ったのは、丁寧な接客とチェーン店にもかかわらず提供されるメニューにどこか手作りの温もりがあることだ。
それもそのはず。テーブルにセットされたノスタルジックなデザインの紙メニューには、「アメリカ・ペンシルバニア州に住む【ペンシルバニア・ダッチ】と呼ばれる人々の素朴で温かい家庭料理を原点としています」と記されている。
そんな背景がある『アンミラ』と、井村屋製菓株式会社(現・井村屋グループ株式会社)の初代社長・井村二郎氏がサンフランシスコで出会ったことで、日本上陸を果たした。
そして、アメリカのアンナミラーズ社と提携を結び、和菓子の印象を払拭するためか、「アンナミラーズ事業部」を立ち上げ事業開始。1号店の青山店のオープンは1973年だが、実は、外食産業の大転換期と重なる。
『すかいらーく』、『フォルクス』、『ケンタッキー・フライド・チキン』(1970年)、『マクドナルド』、『ミスタードーナツ』、『ロイヤルホスト』(1971年)、『ロッテリア』、『モスバーガー』(1972年)など、ファミレスやハンバーガーチェーンの1号店が続々とオープンしていたのだ。
その中においても、『アンミラ』が提供する練りパイの豊かな食感、濃厚なカスタードクリームなどは当時の日本になく、他店も取り扱っていなかった。衝撃なデビューだったのは容易に想像できる。さらに、制服のかわいらしさも相まって、唯一無二の存在となった。
それなのに、2022年8月でサヨナラなのだ。だが、ノスタルジックな紙メニューの裏を見て思った。再開発がなければ閉店しなかっただろう。というよりも、再開発のため、一時的に49年の歴史に幕を下ろすだけなのかもしれない。
ハートマークの上に印刷された「Stay tuned for more information. We’ll be right back!(続報にご期待を。すぐに戻ってきます)」。出店の条件がそろえば再出発する気満々ですよね? 再会できる日を、お待ちしております。
■アンナミラーズ高輪店
[住所]東京都港区高輪4-10-18 ウィング高輪 WEST 2階
[電話]03-3443-3385
[営業時間]9時~22時(20時LO)
[休日]無休
[交通]JR山手線ほか品川駅高輪口より徒歩1分
取材・撮影/Naviee 参考資料/FOODLABO