夏の鹿はおいしいという話を、あるジビエ料理店主から20年以上前に聞いた。確かに炭火で焼いたその肉は絶品で、おいしい驚きは今もしっかりと記憶に残っている。それまでジビエといえば秋から冬に食べるものと思い込んでいたし……。
シカ、イノシシ、クマ。ウズラ、マガモ、キジといった鳥、そしてウサギなど。狩猟の対象で食用とする野生の鳥獣、またはその肉を意味するジビエ。
近年では身近なメニューとなって口にする機会もあるし、ジビエ専門店などもけっこう増えている。食のバリエーションが多くなることはうれしい限り。
里山を守り、命をムダなく生かすために。
京都。府内の美山や丹波、そして奈良や兵庫といった近県の豊かな自然はまさにジビエの宝庫。新鮮な肉を短時間で手にすることができる素晴らしい環境だ。おいしいジビエ料理に出合える店も数多い。そんな京都にあって、日本全国が抱える問題も見えてきた。
京都南丹市美山町。幼馴染の青年たちによって結成された『一網打尽』は、野生鳥獣の捕獲から精肉・加工・販売までを一貫して行う事業を展開する。
主にシカ・イノシシを取り扱い、メンバーが仕留めた獲物のほか、信頼関係のある近隣のハンターからも捕獲鳥獣を買い取り、〈美山のジビエ〉として販売する。
「山に分け入って猟をするイメージがあると思いますが、うちに持ち込まれる野生鳥獣の捕獲場所は主に里です」と語るのは『一網打尽』のメンバーで、隣接するかやぶき屋根の古民家レストラン『ゆるり』を営む梅棹レオさん。メンバーはそれぞれ仕事を持ち、『一網打尽』の主な活動は夜、“子供を風呂に入れた後”なのだとか。
昼は安穏とした雰囲気の集落だが、「夜はサファリパークみたい」と梅棹さん。増えすぎたシカ、イノシシが人里に現れ、農作物を荒らしたり車との衝突事故など、里での生活が害獣によって脅かされていた。その状況への想いが『一網打尽』のはじまりだ。
それまで有害鳥獣駆除では仕留めた鳥獣のほとんどを埋めて始末していたが、「買い取り」をはじめたことで猟師のモチベーションはアップ。傷みの少ない捕獲方法についても情報共有し、買い取り重量も増やすことができた。そうして捕らえたシカ・イノシシをおいしい肉として消費するシステムを整えてきたわけだ。
「(売れずに)冷凍庫がいっぱいになったら負け」のという想いで販路も開拓。コロナ渦での消費低迷には、無添加の犬用ジャーキーの開発などでカバーしてきた。
ジビエは狩猟解禁の秋冬がハイシーズン。でも有害鳥獣駆除にシーズンはなく、シカは春から食べてきた新芽や山菜など豊富なエサが身についた夏、特に雄シカがおいしくなるという。美山の山谷を駆け巡ってきたシカは適度に筋肉がつき肉質もいい。ジビエのプレシーズンとして、赤身の美しいシカ肉を求めてみてはいかがだろう。食べて地域貢献、ジビエにはそんな側面もある。