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「二週間」のはずが「二ヶ月」 生き方を支えた被写体「シマエナガ」との出会い

確かに、無茶は一杯したけれど、直接命の危機があるような取材はせず。
アザラシ・シロクマ・マナティ・プレーリードッグに始まって、ある年、蛍を少し撮ってみると言って出かけたのが、彼の方向性を変えた。わかっていた。二週間ほど行ってくると言って、二ヶ月戻ってこなかったから、この被写体がこれからの彼の生き方を支える。

それは、大きな生き物から小さな生き物へ、海外から国内へというシフトチェンジだ。ずっと海外に向いていた視線が、足元を見るようになり、蛍の季節には九州から蛍前線を追いかけて日本を縦断する生活になった。それでも、アザラシだけは別格で、毎年、三月の上旬にはカナダのケベック州にある離島・マドレーヌ島に行き、流氷の上で、この時期、二週間だけのアザラシの子育てを撮った。

その島では、小原玲は有名人で、私は行く度に立場の変わる女として知られていた。一度めは玲の友達、二度めはフィアンセ、三度めは妻、一年休んで今度はお母さんになって島に行った。流氷に異変が起きたのが一九九八年のシーズンから、と私がしっかり覚えているのは、長男を抱っこして行った年から、と言う記憶が鮮やかだからだ。それまで、ここが海上だと忘れるほどに、水平線までみっしりと張り詰めていた流氷が、ある程度の大きさはあるものの、ふわふわと海に浮いていて、とても子どもを抱いて会いに行ける状態ではなくなっていた。赤ちゃんを抱っこして、アザラシを見せると言う夢を実現させるのは、氷の状態が良かった七年後、末の娘を連れてきたときだ。

長男が生まれた年から、流氷の状態はよくなったり悪くなったりで、年によってはアザラシウォッチングのツアーが全キャンセルされるようにもなった。そうするとカナダには行けない。でも、だからと言って、家にいて愛娘とお雛祭りをお祝いする、というのは違うなあ、と思ったのだ。この時期に、取材しないと、この人はぼける気がする。

「北海道に、すごく可愛い小鳥いるんだよね。シマエナガっていうんだけどね、ほら白くてもふもふでしょ」

「それですよ。今年の三月はそれ撮りましょう。アザラシの代わりに。白いし。丸いし。もふもふしてるし」

小原玲写真集『シマエナガちゃん』シリーズ(講談社ビーシー/講談社)より
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