八代海の夕陽に次の旅の始まりを予感する
入店すると、バーテンダーの木場さんを含め、スタッフは全員アロハ姿。分かりやすいメニューもあり、一見でも寛げる雰囲気だ。熊本の柑橘や薬草を使ったジンベースのシグネチャーカクテル「夜香木」は、甘い香りが魅惑的。旅先の感情の高ぶりも手伝って、ついスタッフと話し込んでしまう。
海外のバーでの勤務経験がある木場さん。「外に出て、故郷の良さを痛感しました」。地元素材を使ったカクテルは観光客のみならず、地元民にも評判だ。その美酒を楽しむうちに、夜は更ける。
翌朝目覚めたら、熊本駅から鹿児島本線に乗って八代に向かう。肥薩おれんじ鉄道に乗り換えたら、一路水俣へ。単線の一両編成に揺られていると、窓外の八代海が、ことさら穏やかに凪いで見えてくる。
水俣名物・水俣チャンポンは、かん水少なめの白い麺が特徴的。「コシはありませんが、スープをよく吸います」と、『喜楽食堂』店主・三牧さんは話す。「戦後の水俣は漁業・林業・工業で栄えたため、外の人との交流が盛んでした。そのなかで多様な麺文化が伝わり、水俣チャンポンの礎となったとされています」。
ゆえに交流の数だけ味わいがあり、和風スープや魚介スープのチャンポンもあるそう。ここ『喜楽食堂』は豚骨100%で、しっかりとした旨みのスープが五層六腑に染み渡る。次に来たら、違うフレーバーのチャンポンを食べよう。街への再訪を誓って、水俣を後にする。
東京へ戻る前に訪れたのは、肥薩おれんじ鉄道・上田浦(かみたのうら)駅。ここでなら八代海の夕陽が眺められる、と思ったからだ。
旅の最後の橙(だいだい)の空はいつも切ないが、しかし終わりは始まりでもある。「待ってろよ〜、東九州!」。まだ乗らぬ九州の路線を思い浮かべながら、私は次の旅の予定を立てるのだった。
『夜香木』 @上乃裏通り
国際的なバーテンダーコンペティションの日本代表に選ばれた経験がある木場進哉さん。地元の果物やハーブ、焼酎を使ったカクテルを得意とする。
夜香木 1500円
またスタッフの気さくな対応が心地いいと評判の店だ。
[住所]熊本県熊本市中央区南坪井町5-21 1階
[電話]090-8408-5211
[営業時間]18時~24時半(24時LO)
[休日]不定休
[交通]熊本電気鉄道藤崎線藤崎宮前駅出口から徒歩2分
『喜楽食堂』 @水俣
1950年の開業以降、地元民に愛される食堂。名物の「チャンポン」は、店主の三牧さんの祖母・初代女将が天草の漁師や海運業者から教わった味だそう。他にもボリューム満点の日替わり定食が人気。
ちゃんぽん 600円
[住所]熊本県水俣市浜町1-2-9
[電話]0966-62-2629
[営業時間]11時~15時(14時半LO)、17時~20時半(20時LO)
[休日]土
[交通]肥薩おれんじ鉄道線水俣駅出口から徒歩10分
撮影/大谷次郎、取材/岡野孝次
※2022年9月号発売時点の情報です。
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