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独自に進化を遂げた「京都の中華」の面白さ

京都の食べ物で、なぜかハマってしまったのが“中華”。京都人に長く愛され、この街で育ってきた中華は他の街のものとは少し違っていたからだ。そんな味に魅せられ、訪れる度についつい足を運んでしまうのだ。

京都で育った中華はあっさり、はんなり

編集長から「京都の中華、やりません?」と言われ、ヤッター!と思わず心の中でガッツポーズ。好きなんですよ、京都の中華。帰り道であこそとここと……とニヤニヤしながら頭の中で思案していたら、たまらなくなって翌日には京都駅に降り立っていた。京都の友人一同の胃袋を借りつつ、もう一度昼夜みっちり食べ歩き、紹介する店を決めようという作戦である。

初めて京都の中華と出合ったのは「カラシソバ」だ。レタスや海老などが入ったあんかけ麺で、パッと見はやさしそうな風貌だが、酢で溶いた辛子が入っていて食べるとツーンと来る。そのツンデレ(?)なギャップにハマってしまったのだ。

「カラシソバ」を生んだのが京都中華のエポックメイキングな人物といわれる、『鳳舞(ほうまい)』(現在は閉店)の高 華吉(こう かきち)さん。広東省出身の高さんは、中華食材が手に入らなかった大正時代、工夫を凝らして料理を作り上げたという。

その直系『鳳舞楼(ほうまいろう)』では「撈麺(ろうめん)(カラシソバ)」のほか、酸味のあるチリソースをまとった「椒醤酥鶏」(通称・からし鶏)など、高さん直伝の料理を味わえる。作り方を見せてくれた店主の相場さんは「東京の人には初めて出合う味でしょう」と笑った。

カラシソバをはじめ、高さんの料理を引き継ぐ店は多く、鳳舞系と呼ばれることもある。店によっても微妙に味は変わり、例えば『平安』(祇園四条)のカラシソバは、中学、高校、大学と辛子の量が選べて、辛さにパンチが効いている。

もうひとつ、京都で特徴的なのが春巻き。卵ベースの生地を1枚ずつ焼き、そこに具を包んで揚げ、食べやすいサイズに切って出す。長方形のいわゆる春巻きもあるが、そちらは「僕らはパリパリ春巻きと呼んでるね」と京都の友人が教えてくれた。

鳳舞系以外にも老舗の中華は多い。例えば作家・池波正太郎に愛された『盛京亭(せいきんてい)』(祇園四条)は路地奥の立地がいかにも京都らしい。

驚くほどあっさりしている『盛京亭』の焼飯(やきめし)。ランチでも食べられる

北京料理ながらも淡くあっさりした味付けで、それも旅人には目新しいのである。

また、京都は学生の街でもあるので町中華も多い。『マルシン飯店』や『華祥』にはそれぞれ名物があって食べてみたくなる。新しいところでは、スタンド中華の『小小幸福』(四条)が面白い。香港で料理人を務めた店主が作るローストダック弁当がローカル中華好きの注目をジワジワと集めている。

四条駅の近くにある『小小幸福』のローストダック弁当。イートインもOK

御所があったことから京都は明治初期に外国人が立ち入れなかった。そこで中華料理も独自の進化を遂げたといわれる。祇園の芸妓さんが食べても匂わないよう、ニンニクやネギを使わず、京都人の味覚に合わせて油を控え、上品なお酢で旨みを利かせる。

京都の文化と様々な工夫が折り重なってこの味わいはできあがったのだ。その背景は京都出身の姜尚美氏著『京都の中華』(幻冬舎文庫)に詳しく書かれているので、興味があったら読んでみてはいかがだろう。ここにきてポツポツと登場したローカル中華も含め、温故知新の中華店を食べ歩くのも京都の意外な一面を知る面白さだ。

撮影/貝塚隆、取材/岡本ジュン

※2022年5月号発売時点の情報です。

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おとなの週末Web編集部
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