コロナ禍でなかなか温泉にも行けない状況です。せめて、記事の中だけでも温泉に行った気分になりませんか? 本誌で料理写真を撮影しているカメラマン・鵜澤昭彦氏による温泉コラム。今回は、青森にある“不老ふ死”の温泉のお話です。
画像ギャラリー今回も前回同様に旅に同行する俺の相棒は30年来の腐れ縁(失礼)、落語家の「柳家獅童」師匠だ。師匠のことは昔からの呼び名で「⾵ちゃん」と呼ばしてもらうことにする。
さてさて珍道中の始まり始まり!
今回は「海賊のお宝か、はたまた“不老ふ死”の秘薬か、わんさかわんさか! わんさかわんさ! いぇ~い、いぇ~い、イェイェ~イの巻」でやんす。
親方、温泉は良いでゲスなぁ。
俺の事務所に久しぶりに遊びにきた「⾵ちゃん」はドアから入るなり高らかに言いはなった。
「親方! 温泉は良いでゲスなぁ~」
「如何したんだい急に、怖いよ」
「拙は最近温泉に入っていないでゲスよ」
「それがどうしたのさぁ」
「前回からこう間が開きますと身も心も錆び付いてしまうざんすよ。なんだか口舌までも悪くなりそうです」
「おいおい、それは仕方がないだろう、担当編集者がなかなか記事化してくれないんだから、次に行けないのよ」(申し訳ありません……by担当編集E)
「またまた、そんなこと言って~。文章にキレがないから後回しにされちゃうんでゲスよ」
「おーっ。言うね!! 師匠に言われると傷つくなぁ」
「ダイヤモンドは傷つかないでゲスよ!」
「そうだ、親方。ダイヤモンド発見みたいな、なにかお宝がありそうな温泉知りませんか? そんなところに拙は入ってみたいでゲスよ!」
「うーん。そうだなぁー?」俺はしばし考えた。「ちょっと遠いんだけど、あることはあるよ」
「えーっ! 本当にお宝が眠っている温泉なんか、あるんでやんすか?」
「うん、実はお宝だけじゃなくて、ついでに不老不死もついてくるんだよ」
「そ、そんなこと聞いたら、いても立ってもいられませんぜ! レェツラゴーでやんす、ささ今からでも行きゃしょう、行きゃしょう」
「しょうがないなぁ~、それじゃちょっと行ってみるかい!」
数時間後、俺は愛車のステップワゴンに風ちゃんを乗せ、首都高を一路、東北道を北北西に進路をとった。
東京から10時間、黄金崎不老ふ死温泉を目指す!
しばらく運転していると風ちゃんが俺に聞いてきた。
「親方~、一体どこへ行くんですかい?」
「えー、まだ3時間も運転してないんだけど! 本日は師匠の希望を取り入れて、マジマジの黄金伝説がある温泉! 青森県深浦の黄金崎(こがねざき)不老ふ死温泉に行くのことよ!」
「ゲッ! ゲゲゲのゲ!! これは驚き、たまげましたよ。青森とは、思いもよりませんでした。まったく意表をつく遠さでやんすね」
「でも師匠がお宝、お宝、言うからさぁ。希望に沿ってみたんだけどな。しかも当然源泉掛け流しであるぞよ !!(温度の関係で加水あり)」
「拙、確かに言いましたよ! すみませんでした!」
「わかればよろしい」
「毒食えば皿まででやんすが、流石に少々遠いざんすね。ちなみに何時間ぐらいかかるでやんすか~? 深浦まで」
「そうだなぁ、東京から車で10時間ぐらいかな」
「…………(無言)」
「芸の道も厳しく、熱く、しかも遠い道のりでやんすが、深浦までの道のりもなかなかなもんですな(笑)」
「わかってるじゃん」
「でも行けばわかるけど、あの辺りは世界遺産の白神山地も大変近いし、本当に素晴らしいところだよ」
「ほ~っ。白神山地ですか。青池って素晴らしいところがあるっていう話じゃないですか? 拙、一度行って見たかったんですよ……(笑)」
「しかし、遠いのは良いにしても、親方~、不老ふ死温泉の不老ふ死はどこからきてるんでやんすか?」
「風ちゃん、深浦周辺は徐福伝説があるんだ!」
「へ~! こりゃまた」
「徐福といえば、元は始皇帝に滅ぼされた斉の国の皇太子で、博識の学者だった人でやんすね」と風ちゃん。
「そう、頭脳を見込まれて始皇帝のそばに仕えていた人物だよ」
(中国の歴史書『史記』の記載だと、始皇帝に『東方の三神山に不老不死の霊薬がある』と進言して、始皇帝の命令で3000人の童男童女と多くの技術者を従えて大船団を組み、東方に船出してそのまま帰ってこなかったと書かれているらしい)
「まあ、日本に不老不死の薬を探しにきた有名人だよ」と俺。
「徐福伝説は確かに日本各地に点在しやすよね。鹿児島県、佐賀県、京都の伊根とか、山口、広島、愛知、三重、和歌山、静岡、山梨、秋田、etc.本当に日本各所に。まぁ、本当に船団組んできたとしても、昔のことだからバラバラになっちゃったんでしょうね」
「うん、そうだよな」
「あるいは、いろんな時代の話が混ざってひとつの伝説になっている可能性もあるかもですな」
「さすが、無駄に博識! しかも推理が冴えてるね」
「うるさいでやっんす」
黄金伝説の由来とは?
「ところで、親方、不老不死の方はなんとなくわかりやしたが、黄金伝説の方はどうなんですか?」
「そっちの方だけど、昔、深浦は上方と蝦夷地を結ぶ海上輸送の要所で、海賊にとっては誠においしい地域だったわけよ」
「海賊ですか」
「うん」
「そんな海賊頭のひとりで黄金崎銭衛門って人が、北前船を襲ったりして蓄財した膨大な宝を深浦のどこかに隠したと言う伝説があるのよ」
「黄金崎銭衛門? こりゃまた下手な名前ざんすねー」
「まぁ聞きなさいって。実際隠し場所は『朝日さす 夕日かがやく岡の上に 漆百樽 黄金萬両』って言われてるらしいんだよ」
「そんなの、眉唾じゃないんでやんすか!」
「それがそうでもなくて。大正時代の新聞に地元の人が馬を放しておいたら、後に帰ってきた馬の足に漆がいっぱいついてきたという記事が載って大騒ぎになったことがあるんだって」
「ほほ~っ、馬がお宝の目録にある漆の樽を踏み抜いたってことでげすか? 漆があるなら黄金だってありますわな~」
「それはまぁ、とにかく、古の伝説が渦巻く温泉なのさぁ」
「ロマンでやんすな~」
「不老不死の薬に黄金伝説とは、ダブルで素晴らしい温泉でやんすね」
「適当だな~………….」
「親方、概要は大体わかりましたから、拙はそろそろ失礼して安眠させていただきやすよ」
「きたよ、きたよ、全く期待してなかったけど、少しは運転を援護しろよ」
「へいへい、お休みなさい」
「こいつ、いつか亡き者にしてくれる」俺はぼそっと呟いた
(長時間運転だったから、安全のため60分に一度は休憩入れるよう心がけた。笑)。
ついに入浴! 海賊の残した黄金の宝の意味が!!
「風ちゃん、白神山地を越えてそろそろ着くよ。もうよい時間だよ」
「うあぁっ、こんな時間に!!」(腕時計を見て風ちゃん、車内で絶叫の図)。
「しまった『朝日さす 夕日かがやく岡の上に 漆百樽 黄金萬両』でやんした!」
「本当に探す気でいたのかい?(笑笑)」
「…………………残念」
「親方、もっと早くに起こしてつかぁさい」
「運転してた俺に言うの?」
「謝りたくないけど………………すみません」
「わかれば、よろしい」
今回はさすがに日帰りは無理なので「不老ふ死温泉」に一泊することにしたが、宿自体は日帰り温泉も営業している(日帰りの時間帯はお宿に確認してね)。
快適な洋室にチェックインした俺は、長い道中で消耗した体力を回復させるために、夕暮れの時間までベッドで仮眠することにした。
「風ちゃん、俺少し仮眠するよ。先にお風呂に入ってくれば?」
「拙も寝ていて、かえって疲れたでやんす。親方につきあって仮眠をしますよ。付き合いが良いでやんしょ」
風ちゃんはそう言ったが最後、さっきまで寝てたくせに、またしても布団のなかで、スヤスヤと寝息を立てている。まさしく乾坤一擲の馬鹿なのか、はたまた天然なのか? 予断を許さない人格に俺は慄いた。
そろそろ夕暮れの時間というところでアラームが鳴り、俺は起き始めた。そして窓から空の天気を確認したのだ。日頃の行いが良いのか本日は快晴だ。天気さえ良ければ余裕綽々である。
「風ちゃん、お宝発見の時間だよ。そろそろ起きなよ」
「えっ! なんですって~」風ちゃんは、「むにゃむにゃ」言いながら起きてきた。
「まあ手拭い持って、俺についてきなよ」
「……へい、へい」半信半疑の風ちゃんが手拭いを用意するのを待って、俺は部屋を出た。
そして波打ち際の岩場に隣接した露天風呂に向かった
(こちらの露天風呂は混浴、女性専用がある。混浴では女性は湯浴み着の着用が認められている。シャワーは無いので内湯で身体を洗ってから入るのが好ましい。また、宿泊した部屋は1階だったが、施設自体は斜面に立っているので露天風呂に行くにはエレベーターで下る形になる)。
露天風呂に到着すると更衣所で素早くスッポンポンになり、もうすでに幾人かが入浴している瓢箪型の湯船に素早くドボチョンと入った。
するとどうだろう、ジャストタイミング~。今まさに夕日が日本海に沈もうとしている。
湯船に入っている全員が日本海に沈む夕日に見入ってる。そして夕日が日本海の水平線に消える直前、風ちゃんがポツリと言った。
「親方、空一面、黄金色でございますなぁ……! 赤褐色のお湯も日本海の水面も夕陽を反射して、拙の視界すべてが黄金色に変わりました。はっん! 親方、本当に命が洗われるとはこのことででやんすなぁ。これこそが海賊の残した黄金の宝なんでやんすね!」
「風ちゃん、冴えてるね!!」
その時、風ちゃんに黄金崎銭衛門が乗り移ったように語り始めた。
「さぁみなさま、今まさに黄金崎の地に、風景を黄金色に覆い尽くす時間帯がやってきました。海岸、海面と温泉が拙の前で黄金の三位一体になるとき。
赤褐色の野趣溢れる天然温泉の露天風呂に入れば、この眼前に広がる絶景が不老不死の霊薬になるのでございます!」
風ちゃんは顔を夕日に染めながら、「かっかっかっかっ」と高らかに笑いきったのだった。
※夕暮れ時になると景色全部が黄金色に染まることにから名づけられたのが黄金崎(こがねざき)の地名の由来
■不老ふ死温泉
[住所]青森県西津軽郡深浦町大字舮作字下清滝15
[電話番号]0173-74-3500(株式会社 黄金崎不老ふ死温泉)
http://www.furofushi.com/