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映画に登場する2ワイナリーの5アイテムをテイスティング

さて、ここからはワイン自身に語らせよう。映画に登場する2つのワイナリーのワイン計5アイテムを、インポーターの協賛を得て入手し、テイスティングしてみた。

まずは、レバノン・ワインの代表格と言えるシャトー・ミュザールの2アイテムから。同社はレバノンで初めてオーガニック認証を取得した造り手でもある。

シャトー・ミュザールの2アイテム

「シャトー・ミュザール・ホワイト2014」。オバイデ60%、メルワー40%。接木をしていない自根のブドウ木の果実を用い、仏製オーク樽(新樽率30%)で発酵・熟成。瓶詰め後さらに6年間寝かせてからリリース。バタースカッチ、パッションフルーツの鮮烈な香りに松葉を思わせるトーンが厚みを与える。口中を洗うフレッシュさがあるが、「キリリ」と引き締まったというよりは大らかでふくよか、陽を浴びているような暖性を感じる。

「シャトー・ミュザール・レッド2016」。カベルネ・ソーヴィニヨン33%、サンソー33%、カリニャン33%。セメントタンクで発酵、そのまま9ヶ月熟成。その後。仏製オーク樽(新樽率30%)で1年間熟成。ブレンド後さらに熟成をかけてから瓶詰め。そのまま寝かせること3〜4年でリリース。溶け込んだ黒系果実となめし革の香り。口の中では程よい厚みが感じられ、濃密なチョコレートやカシス、ドライフラワーの奥から、グロゼイユを思わせる野生味のある赤い果実の風味が閃光のように差す。

続いて、スヘイルさんの話にも出てきたドメーヌ・デ・トゥレールの3アイテム。同社は1868年創業、レバノンで最初の商業ワインの生産者である。ワインメーカーのファウージ・イッサ氏は南仏のモンペリエ大学で醸造学を学び、ボルドーのシャトー・マルゴーでも研修をしている。

ドメーヌ・デ・トゥレールの3アイテム

「メルウェ&オベイデ ヴィエイユ・ヴィーニュ2021」。メルウェ50%、オベイデ50%(メルウェはメルワーのことだが、ここではインポーター表記を採用)。和の柑橘を思わせる優しい香りにレモングラスやベルベンヌのような香りが混じる。口の中では伸びやかな酸が爽快感をもよおす。ハーブのような苦味が後口を引き締める。

「スキン by ドメーヌ・デ・トゥレール2020」。標高1500m近い高地に自生する、樹齢150年以上の古木のメルウェに実った果実を皮醸しして造ったオレンジワイン(赤ワインの製法で造る白ワインのこと)。「在来品種」「古木」「有機栽培(認証は未取得)」「野生酵母」「アンフォラ(素焼きの瓶)で発酵・熟成」「皮醸し」と、世界のワイン・トレンドのキーワードを網羅したような造り。ふくよかな酵母香の奥から紅茶キャンディーのような、甘く切ない香りが覗く。口に含むと、意外なほどドライで、チーズやブルスケッタから白身肉の料理まで、幅広い料理と合わせられそう。

「サンソー ヴィエイユ・ヴィーニュ2019」。ザクロや野イチゴ、梅干しのような酸っぱくて食欲をそそる香りに、白檀(びゃくだん)やシダーの香りが複雑味を加える。口の中ではほろりと甘い果実味とイノシン酸系の旨味が広がり、思わず笑みが。程よい酸と緻密なタンニンもあり、熟成のポテンシャルを感じさせる。

今回は、映画『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』の冒頭に出てくるこんな言葉を拝借して、まとめとしたい。
〈人間がたたかっていても酵母はワインをつくる〉
噛み締めつつ、飲むべし。

ワインの海は深く広い‥‥。

※映画『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』は、11月18日(金)より、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー公開。

Photos by Yasuyuki Ukita
Special Thanks to: ジェロボーム株式会社、VD’Oヴェンドリーヴ株式会社、ユナイテッドピープル株式会社

浮田泰幸
うきた・やすゆき。ワイン・ジャーナリスト/ライター。広く国内外を取材し、雑誌・新聞・ウェブサイト等に寄稿。これまでに訪問したワイナリーは600軒以上に及ぶ。世界のワイン産地の魅力を多角的に紹介するトーク・イベント「wine&trip」を主催。著書に『憧れのボルドーへ』(AERA Mook)等がある。

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