冬の京都(1)凛とした空気に包まれ心を解きほぐす、静かな寺3選

冬の京都は、観光客が比較的少なく、ゆったりとした気持ちで街を歩けます。ストレスの多い毎日。疲れた心を癒すために庭を愛でたり、美に触れたり―― 。冬の京都で心をととのえてみませんか。 武将で江戸初期の漢詩人、石川丈山(じょ…

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冬の京都は、観光客が比較的少なく、ゆったりとした気持ちで街を歩けます。ストレスの多い毎日。疲れた心を癒すために庭を愛でたり、美に触れたり―― 。冬の京都で心をととのえてみませんか。

武将で江戸初期の漢詩人、石川丈山(じょうざん)が手がけた庭

侘びた山門をくぐると、空気ががらりと変わった気がした。高い木々に囲まれた『蓮華寺』は、濃密な静寂の中にある。受付を通って書院に足を踏み入れると、暗い室内から光の降り注ぐ庭が浮き上がってくる。

池を配した庭は深緑色の苔と高い樹木に覆われていて、池の上だけにぽっかりと空がのぞいている。訪れた日は少し曇っていたが、そのぼんやりした光も風流そのもの。

『洛北蓮華寺』

『詩仙堂』を造った石川丈山が手がけた庭は、詩仙堂同様、雨や曇りの日にも豊かな表情を見せてくれるようだ。来訪者はみな無言で、ゆるりと流れる空気に身を任せている。庭からの撮影は禁止だが、思わずスマホに手をのばしたくなる。その衝動をこらえ、緑と光がもたらす、その侘びた風景を心静かに味わいたい。

“俳諧の聖地”を訪ねて

京都市内の中心地から少し離れた一乗寺界隈は、街の喧騒を避けて過ごすにはうってつけ。その一角に“俳諧の聖地”として知られる『金福寺(こんぷくじ)』がある。門前の急な石段を登り、敷地へ出ると本堂の前には枯山水の庭園が開けている。

与謝蕪村直筆の『洛東芭蕉庵再興記』や『芭蕉像』など、興味深い展示のある本堂はひとまず後にして、飛び石に誘われるままに上を目指す。中腹には、松尾芭蕉が当時の住職・鉄舟和尚と風雅の道について語り合ったという芭蕉庵がひっそり佇んでいる。与謝蕪村もここを愛し、度々句会を開いたという。

『金福寺』

茅葺の庵は創建時の建材をできるだけ使用し、復元修復したもので、当時の面影を残している。訪れる人もまばらなこの場所では、風の音やポトリと落ちる枯れ葉のざわめき、心地よい自然のリズムが耳にすっと流れ込んでくる。

さらに細い道を上へ進むと、開けた視界からは、背後に愛宕山が広がる京都の街を一望できた。多くの俳人を惹きつける金福寺の豊かな自然が、疲れた現代人の心を安らげてくれるのだ。

椿、燈籠、楓、松がぴたりとはまって見える「しきしの窓」

京都の静かな寺院は中心地から離れた場所に多いが、『雲龍院』があるのは京都駅からもほど近い東山区。それでいて森の小道のようなアプローチを進むうちに、いつしかひっそりとした場所へと分け入る気分になってくる。

庭園自慢の寺は数知れずの京都だが、ここではその庭園を覗く窓にこそ風雅が宿っている。書院にある悟りの窓に向かって座ると、枝ぶりの良い梅の木がまるで掛け軸のように美しく見えた。右隣には四角い迷いの窓があり、禅の世界を投影したふたつの窓は一対になっているという。

『雲龍院』

有名な「蓮華の間」は4枚の雪見障子に四角く窓が切られ、椿、燈籠、楓、松がぴたりとはまって見えることから「しきしの窓」とも呼ばれる。この部屋に座して、しばし日本の美に浸るのもいいだろう。

さらに書院の奥へと進むと、大きく開かれた窓から見事な庭を一望できる「大輪の間」がある。用意された椅子に座り、瞑想石に足をのせて清々しい外の空気を吸い込めば、体の中からリフレッシュできそうだ。

人の多い京都だが、それでも少し外せばそれほど混み合わない寺も多い。冬の引き締まった冷たい空気に包まれ、静けさに身を委ねて心を解きほぐしたい。

『洛北蓮華寺』開放感たっぷりの静謐な庭を眺めて自然と一体になる

大原へ通じる国道にポツンと位置する蓮華寺は、加賀前田家の家老・今枝近義が、応仁の乱後に荒廃していた古寺を現在の場所に移築し、再興したという。

『洛北蓮華寺』

その際に石川丈山、狩野探幽といった当時の文化人が力を貸し、高い美意識を感じさせる空間が造られた。六角形の傘を持つ個性的な灯篭は後に蓮華寺形灯篭として知られ、江戸時代の茶人に好まれた。特に、新緑や紅葉の時期は格別に美しい。

『洛北蓮華寺』

[住所]京都府京都市左京区上高野八幡町1 
[電話]075-781-3494
[営業時間]9時~17時
[休日]不定休
[交通]京都バス「上橋」バス停から徒歩約1分

『金福寺』俳人たちが愛した山間の侘びた風情が心に静けさをもたらす

創建は平安時代。江戸時代に松尾芭蕉が住職の鉄舟和尚を訪ねたことから、その住居であった庵を『芭蕉庵』と名付けたという。その後、芭蕉を慕う与謝蕪村が荒廃していた庵を再興し、その様子を『洛東芭蕉庵再興記』として書き残した。

『金福寺』

また舟橋聖一の小説『花の生涯』のヒロイン・村山たか女が晩年を過ごしたことでも知られる。京の街並みを一望でき、蕪村の墓が建つ高台からの眺めも趣深い。

『金福寺』

[住所]京都府京都市左京区一乗寺才形町20
[電話]075-791-1666
[営業時間]9時~17時(16時半受付終了)
[休日]12月30~31日、1月16~2月末日、8月5日~31日
[交通]京都市営バス「一乗寺下り松町」バス停から徒歩約5分

『雲龍院』悟りの窓に向かい、自身と向き合うひと時を過ごす

雲龍院は御寺泉涌寺の別格本山であり、南北朝時代の創建。現在の建物は江戸時代に再興されたもので、皇室ゆかりの本堂・龍華殿は重要文化財に指定されている。書院にある悟りの間、れんげの間、大輪の間から眺める庭の野趣あふれる景観が見どころだ。

『雲龍院』

悟りの間には有名な悟りの窓、迷いの窓が並ぶ。奥庭には五色に色づく紅葉が植えられ、毎年11月下旬から12月初旬が見ごろとなる。

『雲龍院』

[住所]京都府京都市東山区泉涌寺山内町36
[電話]075-541-3916
[営業時間]9時~17時(16時半受付終了)
[休日]行事により拝観中止あり。詳しくはHPを参照
[交通]京都市営バス「泉涌寺道」バス停から徒歩15分

撮影/村川荘兵衛、取材/岡本ジュン

※2022年12月号発売時点の情報です。

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