『ROZZO SICILIA(ロッツォシチリア)』 @白金高輪
母心にも似た、優しき”くたくた”料理にほっとする
背の高い無口な中村嘉倫(よしみち)シェフが、時々マンマに見えてしまう。目をこする。だけど確かに口は母の優しさに包まれているのだ。しみじみと、じんわりと。『ロッツォシチリア』はクロスのかからない、気さくなトラットリアである。つまみや前菜は何品でもどうぞ。パスタは〆でもいいし、食べなくてもいい。
実際、前菜が豊富だ。ホコホコとしたひよこ豆のパネッレ。シチリア料理の定番、オリーブ・ケッパー・オレガノ入りの濃厚なトマトソースをかけた、ゆで卵。一見朴訥(ぼくとつ)な面構えながら、シチリア州パレルモに軸足を置いた料理は、この店の輝く厨房のように磨き込まれている。
茄子のカポナータなど焦げ茶の山で、初めての人は「パプリカ入れないの?」なんて目をしてシェフを見る。カポナータは南イタリアで広く作られるが、彼が修業したパレルモでは茄子オンリー。
皮が焦げるまでギリギリ攻めた素揚げをし、シチリアのアグロドルチェ(甘酸っぱい)なソースに馴染ませる。逆に漬け過ぎても油が分離してしまうから、営業時間帯が頃合いになるよう、中村さんは逆算して揚げるのだ。2011年のオープン時から変わらない、変えたくない作り方。「なぜって? そういうものだからです」
くたくたに、ドロドロに。それらはイタリア伝統料理における最高の形容詞であり、『ロッツォシチリア』に共通する食感である。豚のアロースト(蒸し焼き)だってそう。塊のまま低温でじわじわ火を入れ、一滴の旨みも逃すまじと蓄えた豚肉。
山形 金華豚肩ロース カリフラワーとブロッコリーのロースト 3100円
その上に、ブロッコリーとカリフラワーのくたくたがのっかっている。まるでぶっかけご飯みたいなラフさでありながら、佇まいに品の良さを感じるのは、きっと作る人の清潔感に違いない。
ニンニクとトマトだけのパスタがある。強いニンニクを好まない中村さんが、「香り高くても舌に残らない」発芽ニンニクとフレッシュトマトを、これまたぐずぐずに煮ただけのソース。けれどこのパスタ、二日酔いの朝に食べたいほど舌も身体もいたわられている感じがするのだ。
訊けば中村さんは、パスタの茹で湯に塩をひとつまみも入れていないという。「必要ないな、と思って」「お酒が進む塩分強め」より「何度でも食べたくなる」ほうがいい。一点の曇りもない人の料理は、ほっとして懐かしくて、やっぱりマンマのそれに似ている。
[住所]東京都港区白金1-1-12 内野マンション1階
[電話]03-5447-1955
[営業時間]17時~23時(21時LO)
[休日]日・月
[交通]地下鉄南北線ほか白金高輪駅3番出口から徒歩5分
撮影/貝塚隆、取材/井川直子
※2022年6月号発売時点の情報です。
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