『Ostu(オストゥ)』 @代々木公園
簡素な美の向こう側に、豊かな境地が広がる
何度でも惚れ惚れとしてしまう、美しく立った角。ローズマリーを挿しただけの侘び寂び感。凛、の文字が浮かぶ『オストゥ』のアニョロッティ・デル・プリンは、これ以上何も足し引きできない、完璧な工芸品のようだ。
アニョロッティ デル プリン 小さなラヴィオリ
「パスタカッターが違うんですよ」謙遜かと思いきや、宮根正人シェフは大真面目に語っていた。プリン=つまむの意を持つ、この小さなラビオリの故郷、イタリア・ピエモンテ州には専用のカッターがある。
刃が鋭利”ではなく”やや厚みを持ち、生地を潰しながら切るからぴたりと接着。すると茹で上がりが違い、「その味」になる。宮根さんは修業時代に買ったものを、2007年の『オストゥ』開店時から使い続けていた。
ここで肝心なのは「道具がいい」ことでは決してない。「違い」を感知するシックスセンスが、彼には備わっているということだ。同州で5年、うち4年をバローロ村の一つ星ただ一軒で修業した。師匠一家とファミリーになり、地元の肉、チーズ、グリッシーニの専門店でも学んで、土地に根を張り養ってきた第六感。
カルネクルーダは、本来なら牛肉を生で食べる料理。もちろんここは日本だから馬肉でチューニングしているが、ピエモンテの仕事はきっちりと施されている。タルタルとは言うものの、みじん切りではなく叩くのでもない。ましてやミンチでは決してない。
宮根さんは肉を、まず薄切りにし、千切りにし、最後にごく細かなサイコロ状に切っているのだった。「肉に粘りを出さないためです。リッチよりも、クリアな味になるように」熊本県産馬肉の、歯応えあるモモ肉。微かな脂もピンセットで抜き、赤身肉の純な旨みが冴え渡る。生の肉をして「爽やか」とさえ感じるのだからおもしろい。
ところで、ピエモンテでチョコレートといえば当然ヘーゼルナッツ入り。そしてトルタといえば、これを詰めて焼いたもの。『オストゥ』ではすべて自家製、焼きたてだ。フォークを刺すと、とろりと流れ出るチョコレート。開店初日から15年続く、濃厚な味わいには迷いがない。
「飾らない皿だからこそ、ちゃんとしないと説得力のある皿になりません。ピエモンテを掲げる以上、ピエモンテの味であることに責任があると思っています」簡素な皿には真実のみがある。だとしたら簡素とは、なんと豊かな境地だろう。
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