短鎖脂肪酸の働き
短鎖脂肪酸でないのは、(1)の「乳酸」です。
乳酸は、激しい運動をした後に蓄積することから、以前は疲労物質とも呼ばれていました。しかし最近では、筋肉のpHバランスが酸性に傾くことが疲労の一因と考えられています。血液中の乳酸は、肝臓でグリコーゲンに再合成され、再びエネルギー源として利用されます(参考[1])。
乳酸はおもに小腸で乳酸菌により産生されます。大腸でもビフィズス菌などにより産生され、腸内を弱酸性に保ち腸内環境を整えるのに寄与しています。
短鎖脂肪酸は、ヒトの大腸内でビフィズス菌などの菌が水溶性食物繊維などをエサにして作りだす酸(有機酸)の一種です。脂肪酸は炭素がいくつか鎖状に連なる構造をもっていますが、炭素数が6以下のものを短鎖脂肪酸といいます。特に健康にとって重要なのは、「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」の3種とされています。
短鎖脂肪酸のはたらきは多岐にわたっていて、以下のようなおもなはたらきのほか、整腸作用や生活習慣病予防、水やミネラル(Na・Ca・Mg)の吸収促進など、多くの機能を持っていることが分かってきました。また、短鎖脂肪酸はエネルギー源ともなります。酪酸は大腸上皮細胞のエネルギーとして、酢酸とプロピオン酸は肝臓や筋肉で代謝に活用されます。
・食欲を抑制する
腸管の表面には、腸管内分泌細胞という栄養素を認識して消化管ホルモンを分泌する細胞があります。短鎖脂肪酸が腸管内細胞の受容体と結びつくことで、食欲を抑制するホルモンが分泌されます。
・便秘を解消
短鎖脂肪酸が増えると腸内が酸性になり、大腸の粘膜を刺激してぜん動運動が活発になります。また、短鎖脂肪酸は腸管内に電解質と水分が放出されるのを促し、便の水分量を増やします。これらの効果で便通が改善されると考えられています。
・悪玉菌を抑える殺菌、静菌作用
短鎖脂肪酸は腸内を適度な酸性に保ち、悪玉菌の活動を抑えます。特に酢酸には、悪玉菌を退治する殺菌作用や、増殖を抑える静菌作用があることが知られています。
・免疫力を高める
腸には多くの免疫細胞が集まっており、免疫システムの約70%は腸にあるとも言われています。短鎖脂肪酸の中でも、酪酸やプロピオン酸には、元気な腸粘膜を維持してウイルスや病原菌から体を守る「腸管バリア機能」を高める働きがあります。