高い技術と経験が必要な和食、寿司、フランス料理は息の長い業態 3年以内の閉店が少ない業態の上位3つは「和食」「寿司」「フランス料理」が挙げられます。前回の調査でもこの3業態でした。共通しているのは、専門的な技術や知識が、…
画像ギャラリー「長い間ご愛顧いただき誠にありがとうございました」。コロナ禍を受けてなのか、こんな張り紙を目にすることが、ここ1、2年の間に度々ありました。飲食店に客足は戻りつつありますが、物価高騰などの影響で厳しい状況は依然として続いています。飲食専門支援サービスサイト「飲食店ドットコム」を運営するシンクロ・フード(東京都渋谷区)は、同サイトの造作譲渡(店舗の内装などをそのまま譲り渡すこと)情報をもとに、2016年1月1日から2022年12月31日の間に閉店した飲食店の業態と営業年数のデータ3133件を調査し、結果を発表しました(2023年2月1日)。調査から見えてきたのは、“閉店しやすい業態”の実態でした。
競合店との競争が激しいことが要因か
今回、対象となったのは計18業態。調査結果によると、“閉店しやすい業態”とみられるのは、「お弁当・惣菜・デリ」「そば・うどん」「カフェ」「ラーメン」の4つです。営業開始から1年以内の閉店数はいずれも3割以上。しかも、3年以内での閉店は、6割にも達しました。他の業態に比べて目立っています。
前回の調査(調査期間2006年7月31日〜2015年7月21日)では、「そば・うどん」「ラーメン」は1年以内の閉店が4割以上、「お弁当・惣菜・デリ」「カフェ」は3割以上という結果。この4つが、生き残りが難しい業態であることがよくわかります。
今回の調査で、「お弁当・惣菜・デリ」は3年以内の閉店が約7割と最も高い結果となりました。前回調査の際には、5割半ばで、18業態の中では、低い方でした。コロナ禍による持ち帰り需要が見込めそうな印象がありましたが、背景には、以下のような要因もありそうです。
まず、単価が低いお弁当やお惣菜は、手頃な価格で利益を得るには販売数を増やすほか、安く仕入れができることや家賃の負担が少ないなど経費を抑える手立てが不可欠になります。衛生面で必要なアルコール消毒や手袋は、新型コロナウイルス感染症の蔓延で、用意する数が増えたほか、しばらくの間は品薄になって価格上昇もみられました。開業してから思わぬことで出費が嵩むことは度々あるので、運転資金に余力がなければ運営の継続が困難になります。
在宅ワークや休校など、人の外出機会が減ったことで、オフィス街や学校付近にあった店舗は、大きな影響を受けたものとみられます。
ただ、飲食店の業態全体を見ると、前回調査に比べて3年以内に閉店する割合は下がっていました。コロナ禍の給付金や補助金の支給で、“閉店率”が低くなったことも一因として考えられます。
一方、帝国データバンクが発表したラーメン店の倒産理由で多数を占めたのは、「競合店との競争激化」でした(2020年調査)。外食でラーメンの人気は安定していますが、これを反映して“出店したい業態”としても人気が高いため、他店との差別化ができない店や、低価格戦略がうまくいかなくなって経営を圧迫するケースもあるようです。
近年では、1杯1000円を超えるラーメンを提供するお店は珍しくありません。ラーメン激戦区の東京・荻窪にあるラーメン店では、羊にこだわった「ひつじそば」を1900円という高価格で提供するなど個性的なメニューで、注目を浴びています。競合が厳しくても、このように素材を吟味することで売価を一般的な店よりも高めに設定し、個性的なメニュー構成で、差別化を図るお店の出店は、今後も少なくないでしょう。
高い技術と経験が必要な和食、寿司、フランス料理は息の長い業態
3年以内の閉店が少ない業態の上位3つは「和食」「寿司」「フランス料理」が挙げられます。前回の調査でもこの3業態でした。共通しているのは、専門的な技術や知識が、他の業態よりも高度なものが求められ、それらの取得までに一定の時間を要するということでしょう。
例えば、和食の板前になるには、店によって言い方は異なるものの大きく分けて5段階の修行があると言います。野菜の下処理や洗い物などをする「追い回し・下積み」から始まり、盛り付けをする「先付け・八寸場」、「焼き場、揚げ場」、「蒸し場、煮方」、「板場」の順に上がっていきます。季節に合わせたメニューを織り込むなど、仕事をしっかり身につけるには、ある程度の期間が必要です。
これらの業態は、高価な食材の取り扱いも多く、料理に合わせた飲み物の提供など感度の高いサービスが求められます。軸となる人材は開業するまでに様々な場所で経験を積み、仕入れ先やお客様とのつながりができている場合が多く、きめ細かいサービスに対応できるため顧客の満足度も高くなります。
記念日や会食といった特別な食事にも利用される寿司やフランス料理の開店件数は、他に比べて少ないため、競合も比較的少なく、これらの要因が営業年数の長さにも関係しているようです。
飲食店の開業に調理師の資格は必ず必要なものではないため、飲食経験がなくても始めることができます。ここ数年では、兼業しながら店舗を間借りして週に1度だけカレー店を営業したり、ネットショップの開設でお菓子の販売やキッチンカーから始めたりという出店の選択肢も増えています。リスクをできる限り抑えながら、オリジナリティを持った店を始めるケースは、今後も増えていくのではないでしょうか。
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