京都の味といえば白味噌は外せません。お正月の白いお雑煮、千年続く門前名物の秘伝のタレ、脂ののった魚を極上の一品に変えてしまう……など。そんな京の味の要を探る旅に出かけてみました。 まずは室町一条の老舗で白味噌を知る 京都…
画像ギャラリー京都の味といえば白味噌は外せません。お正月の白いお雑煮、千年続く門前名物の秘伝のタレ、脂ののった魚を極上の一品に変えてしまう……など。そんな京の味の要を探る旅に出かけてみました。
まずは室町一条の老舗で白味噌を知る
京都市内には白味噌を商う老舗がいくつかあります。『本田味噌本店』は創業1830(天保元)年。京都御所の西側に店を構えて200年近い歴史を持つお店。初代・丹波屋茂助が禁裏御所御用達として味噌を献上し、一般向けに商うようになったのは明治の遷都がきっかけでした。
「色の白い味噌全般を“白味噌”と呼ぶ方もいるため、京都で造られた白味噌を“西京味噌”と呼び分けたりもします。江戸が東京と呼ばれるのに対して京都を西京と呼んだことから当社では白味噌を「西京味噌」と命名し、今では広く親しまれています」と教えてくれたのは本田味噌本店営業部の田中淳子さん。
「白味噌を使った料理で全国的に知られているのは魚を漬け込んだ西京焼きじゃないでしょうか。ほかにも京都のお雑煮、酢味噌や田楽味噌、お正月に欠かせない花びら餅や端午の節句でいただく柏餅の白味噌あん、焼き菓子の味噌松風といった和菓子にも白味噌は広く使われています。普通の味噌と違って塩気が少ないので料理に使いやすく、カレーやシチューのコク出しなど、隠し味としても使われていますよ」
そう、京都の白味噌は甘いのです。普通の味噌が塩分13%前後なのに対し、白味噌は5%ほど。上質な米麹を大豆の2倍使っており、麹を糖化させた上品な甘みとなめらかな口当たりが特長です。熟成期間は数週間~1カ月と短く、日持ちは3~6カ月程度。長期保存にはあまり向いておらず、原料の味の良さや繊細な甘みと芳香を味わう、平安の頃の王朝文化が生み出した“都の味”なのです。ちなみに、一般的な味噌は種類にもよりますが半年以上かけて熟成させるものが多いので、全く違いますね。
京都の人にとってはなじみ深い白味噌ですが、とはいえ、日常のお味噌汁はご家庭それぞれの味があって、白味噌一辺倒ではないとのこと。
「当社でも白味噌と赤味噌のほか合わせ味噌や紅こうじ味噌など、さまざまな商品をラインナップしています。白味噌の需要が一番高まるのはお正月の準備がはじまる年末。京都でお雑煮といえばやはり白味噌が定番ですから」
京のお雑煮を求めて汁物で有名な割烹へ
お雑煮は全国各地でだしや具材もさまざまですが、黄みがかった白いお雑煮は京都の味。その「本物の京のお雑煮」を食べに、いざ……ということで訪れたのは汁物と茶事懐石風の「利久辨當(りきゅうべんとう)」が名物の割烹『志る幸』。
例年2月いっぱいまで提供され、昼夜どちらの営業でも注文可能というお雑煮は、具材が丸餅ふたつのみという潔さ。仕上げに乗せられた刻んだ三つ葉と柚子皮、鰹節の香りがふんわりと立ちのぼります。汁は白味噌の甘さとコク、丁寧にひかれたダシの風味がしっかり感じられ、シンプルだからこそ素材の味が引き立つ味わい。
「うちは利尻昆布と枕崎の鰹節を使っており、多めのダシで伸ばしているのでさらりとした汁になっています。お雑煮は期間限定の提供ですが、汁物は通年で白味噌の味噌汁をお出ししています。味噌も出汁もお雑煮と同じものを使っていますので、期間外でも汁物でその風味はお楽しみいただけます」と語るのは店主の小堂修平さん。
店名でもお分かりいただけるように『志る幸』は汁物が有名なお店。注文する際に汁を赤味噌、白味噌、すましの3種類から選び、基本の具材である豆腐のほか、別の具材(別料金)も10種以上用意されています。蛤や甘鯛、鱧などの魚貝に惹かれますが、一番人気は丹波産の山芋をとろろ状にした純白の「おとしいも」だとか。芋の豊かな香りと粘りのあるもっちり食感が楽しめます。
単品のお料理も用意されていますが、多くの人はお膳に汁物が付く「利久辨當」(2700円・税込)がお目当て。ぜんまいの含め煮やサワラの柚庵焼き、完璧な半熟卵など、ひとつひとつ手間をかけた滋味深い料理が味わえ、ひっきりなしにお客さんが訪れるのも納得です。
……後編に続く。
本田味噌本店
住所/京都市上京区室町通一条上ル小島町558
電話/075-441-1131
営業時間/10:00~18:00
定休日/日曜
志る幸
住所/京都市下京区四条河原町上ルー筋目東入ル
電話/075-221-3250
営業時間/昼11:30~15:00(最終入店は14:00)、夜17:00~21:00(最終入店は19:00)
定休日/火曜夜、水曜、不定休
備考/懐石料理は要予約
編集/エディトリアルストア
取材・執筆/成田孝男、渡辺美帆
写真/児玉晴希
※情報は令和5年2月13日現在のものです。
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