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京都の味といえば白味噌は外せません。お正月の白いお雑煮、千年続く門前名物の秘伝のタレ、脂ののった魚を極上の一品に変えてしまう……など。そんな京の味の要を探る旅に出かけてみました。

京都北部で千年前に生まれたあぶり餅を味わう

古くから京都で親しまれてきた白味噌。その古の味わい、姿は現代にも伝えられています。京都北部・紫野にある『一文字屋和輔』、通称“一和”のあぶり餅がそれです。

出来立てのあぶり餅は表面がパリッと焼き上げられ、きなこと餅の焼けた香りに白味噌たれの甘みが口いっぱいに広がる

『一文字屋和輔』の創業は平安時代中期の1000(長保2)年。今宮神社の東門参道(旧参道)にある門前茶屋として神社とともに長い年月を歩み、日本最古の飲食店とも言われるお店です。

時を経たであろう木製の看板には「阿ぶり餅」の文字。店の建物は京都市の景観重要建造物に指定されている

提供するのは名物〈あぶり餅〉のみ。注文を受けてから焼きはじめます。パチパチと音を立てる炭火の焼き台に餅を刺した串を乗せれば、すぐにこんがり焼き目が。お茶とともに運ばれる出来立てのあぶり餅は、香ばしい匂いが鼻をくすぐります。

あぶり餅は一人前11本(600円・税込)。焼き立てをたれに浸したものがお茶とともに運ばれてくる

「うちでは餅をちぎってきな粉をまぶしてから竹串に刺していて、きな粉は昔ながらの薫り高い深煎りの京きな粉を使っています。昔は小麦粉もありませんから、お餅がくっつかないよう打ち粉の代わりに使っていたんじゃないでしょうか」と話すのは25代目の女将・長谷川奈生さん。

備長炭の爆ぜる音と餅の焼ける匂いが参拝客を誘う。高温の炭火で焼かれた餅のふくらんだ様子もかわいらしい
25代目の女将・長谷川奈生さん。今宮神社の参道にある店を代々守り、店先であぶり餅を焼いてきた

外がパリッと焼けてふくらんだ餅に絡むのは特製の白味噌だれ。麹の甘みをほのかな塩味が引き立てる白味噌らしい上品な味わいが、きなこと餅の焼けた香ばしさとともに口に広がります。

「今は白味噌を伸ばすのにお砂糖とお湯を足して炊いていますが、平安時代はまだ砂糖もありませんから麹の甘みを楽しんだのでしょうね」と長谷川さん。

一人前は11本。餅の大きさは指先ほどなのでぺろりと食べきれます。おかわりを迷うところ……。

白味噌を炊いた特製だれにまとめてどぼんと漬けているので、たれがまんべんなく行きわたる

焼きたての提供が基本ですが、お持ち帰り用も用意されています。

「お餅は冷めると固くなってしいますし、保存もききませんが、縁起物なので内祝いなどに使いたいというご近所様のご要望もあってはじめました。紐が紅白なのはそのためなんです」

持ち帰り用は3人前(1800円・税込)から。日持ちはその日限りで、「冷めると固くなってしまうので、少し電子レンジで温めてください」とのこと

実はこちらの竹串は神社に奉納された斎串(いぐし)を使っています。今宮神社は平安以前より疫神を祀っていた由緒があり、お供え物のお下がりを使ったあぶり餅は疫病除けや無病息災の縁起物だったのです。

奉納された斎串のおさがりだという竹串の先はY字に割られている。これは焼いてふくれた餅が落ちないための工夫だそう

「千年企業と言われますが起源は商いではなく奉仕です。お供えのお下がりを氏子みんなでいただくための場所。だからこの店は昔から女性だけで賄い、男は外で職に就いて稼いでこいという方針です。今は観光のお客様も大勢いらっしゃいますが、旅の客が来るようになったのは江戸時代以降でしょう」と笑う長谷川さんからは今も地元の人たちと信仰を支えているという矜持がうかがえます。

今宮神社の東門。一条天皇の御代994(正暦5)年に疫病を鎮めるため神輿を造営し、紫野御霊会(今の今宮祭)を営んだのが始まりとされる

改めて見回してみると建物もしつらえも歴史を感じさせるものばかり。建物は元禄年間と大正時代の建物の合体で、屋根の上の鍾馗様も3体それぞれが時代の違うもの。建物に入り込む立派な松の木の足元には、平安時代から今日まで水の湧く深い井戸があり大切にされています。千利休が水を汲みに来たなんて逸話もあるそうで、このお店ひとつで千年の歴史を感じるタイムスリップしたような時間が過ごせます。

旧参道にはあぶり餅を出す茶屋が向い合せに2軒あり、一和は軒を貫く大きな松の木が目印となっている。観光シーズンは長蛇の列ができることでも知られている
松の木の根元には平安時代から水が湧く大きな井戸が。5mほどの深さがあるそう。営業中はフタで覆っているが毎日のお供えは欠かさない
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おとなの週末Web編集部
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