一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第1回は、医学部受験でE判定から見事逆転合格した女子高生のお話です。
12月上旬で、合格見込みのない「E」判定
今から10年ほど前のことです。大学入試センター試験(現在の大学入試共通テスト)を1カ月後に控えた12月上旬。高校3年の女子生徒Aさんとお母さんが、筆者の塾を訪ねて来られました。その前年に合格した別の塾生のお母さんからの口コミでした。Aさんの学校は成績順にクラス分けがされていて、彼女は下の方のクラス。それまでほかの塾に通っていましたが、志望する医学部の模試結果はE判定でした。E判定というのは、合格の確率が20%以下で、ほとんど合格の見込みはありません。
「今年は合格するとは思っていませんが、少しでも底上げをして頂きたいと思い、連れて来ました」とお母さん。Aさんの2人のお兄さんは浪人して医学部に進学しました。その経験から、お母さんはAさんの厳しい状況を十分認識されていたのです。
ところが指導開始から2カ月足らず、Aさんはなんと第1志望の私大医学部に見事逆転合格を果たしたのです。Aさんはもとより、ご家族は大変驚きました。しかし、もっと驚いたのが学校の先生方でした。Aさんの学校では、下位クラスで医学部に現役合格を果たした生徒はそれまで1人もいなかったからです。Aさんに厳しく指導する先生がいるという話を彼女から聞いていましたが、卒業式の日には、その先生が彼女のもとへやって来て、「おみそれしました」と頭を下げられたとの話でした。きっとその先生もAさんに目をかけていたがゆえに厳しく指導されたのだと思いますが、彼女の快挙に感無量だったことでしょう。