『源氏物語』に出てくる香のお話
平安時代の貴族は、「薫物合(たきものあわせ)」という各自が配合した薫物(香)を持ち寄り、それを焚いて香りと銘の趣を競う遊びをしていたといいます。
現代にも通じるような夫婦の挿話に、お香が登場します。それは、紫式部の『源氏物語』の梅枝(うめがえ)。光源氏が、娘の成人の儀式のために、六条院の女君などに薫物の調合を依頼し、自らも薫物づくりに励んだそうです。光源氏の薫物は、「女性だけに伝えなさい」とされてきた”秘密のレシピ”だったため、妻の紫の上が「どうして夫がそんなことを知ってるのでしょう?」と、猜疑心(さいぎしん)を強めます。
『源氏物語』の真木柱(まきばしら)では、髭黒大将が、別の女性に逢いに出かけるとき、「火取母(ひとりも)」(香を薫く火鉢のようなもの)を、夫人に投げつけられるという話もでてきます。
関連する絵も添えられており、仏の供香として使われていたお香が貴族の豊かな暮らしを象徴するもののひとつとして、変化していく様子がうかがえます。
特定の香りから、それにまつわる記憶や感情がよみがえる現象を「プルースト効果」と呼びます。本には、花の香りに昔親しかったひとを思い出す和歌なども出てきます。”香り”に特別な思いを寄せてきた先人たちを想像させる記述です。