「全日本さば連合会」広報担当サバジェンヌこと池田陽子さんによる「サバジェンヌが行く〜至福の鯖百選〜」第80回。前回に続いて、福井編。今回はサバのへしこイタリアン、サバのなれずしといった福井の郷土料理を堪能しています。
画像ギャラリー福井ならでは! 街で長く愛される“へしこイタリアン”
福井ならではのサバ郷土料理で忘れてはならないのが「サバのへしこ」(サバのぬか漬け)。独特の旨みがクセになる味わいで、ご飯にも、酒の肴にもぴったりの珍味だ。
そんなへしこを「イタリアン」で楽しんでみるのはいかが?
創業42年を迎える老舗イタリアンレストラン『イタリア食堂ITSUKI』では、へしこのピザや、パスタが楽しめる。
福井県大野市出身の谷口雅治シェフは、日本におけるイタリアンの黎明期という昭和40年代に、大阪・北新地のイタリアンレストランで修業。福井にリターンして『ITSUKI』を開いた。もちろんのこと、当時、福井ではイタリアンはとても珍しかった。
「ミートソースは知っていても、ミネストローネってなに??? カルボナーラって、は??? エスプレッソって??? 見たことないし、なに、量が少ない !!! みたいな時代でした。早すぎましたね(笑)」と奥さまのタミさん。
と、なぜそんな前置きをしたかというと、いきなり「へしこ」が登場したからだ。
いまでこそ、へしこを使った洋風メニューは珍しくないものの、「カルボナーラが未知なる食べ物」のなかで、果敢にもデビューを果たしたのが「へしこピザ」だった。
「へしこの強い旨みがアンチョビのように使えるのでは、と思って試したらおいしく仕上がりました。福井の人はへしこを食べなれているし、提供をスタートしたんです」と雅治さんは語る。
しかし食べなれているといっても、ご飯か日本酒とセット、である。
「ピザは、かなり勇気が必要なようでした……」と雅治さん。
おずおずと見たこともないへしこピザを食べたお客さんたちは、「おいしい」と大絶賛。おつまみにもよいと大人気。リピーターが増え、たちまちピザメニューの「トップの座」を張る看板商品となった。
おそらく福井県における、へしこイタリアン、いやいやサバイタリアンの元祖ともいえる『ITSUKI』のへしこピザ。生地は小麦粉、水、オリーブオイルのみとごくシンプル。イタリアから輸入したトマト、玉ねぎ、ワインなどを入れて煮詰めた特製のトマトソースを塗り、へしこ、チーズをトッピングして焼き上げる。
「へしこは基本塩気が強いので、しょっぱくならないように使用するものを厳選。量も工夫しました」と雅治さん。
こんがり焼き上がったピザは、皮がカリッ。中はモチッ。シンプルで雑味なくトマトのフレッシュ感いっぱいのソース、シャキシャキの玉ねぎ、とろけるチーズ、そこにへしこが加わると、特有の旨みと甘みが広がってパッと華やかに味が広がる。味のグラデーションが、アンチョビよりはるかに深いのだ。
しかもワインばかりか日本酒にも合うピザ! 「日本酒のイベントでも、おつまみに好評ですね」と雅治さん。
へしこを使用した、野菜たっぷりのペペロンチーノ、その名も「へしこんチーノ」も『ITSUKI』の人気メニューだ。
へしことガーリックの相性もバッチリ。へしこの旨みがしみこんだ野菜がこれまたおいしい。
福井ならではの「へしこイタリアン」をとことん、味わってみていただきたい。
■『イタリア食堂 ITSUKI』
[住所]福井県福井市中央3-3-11
[電話番号]0776-22-1190
[営業時間]11時半~14時、17時~21時半
[定休日]月
[交通]JR北陸線ほか福井駅から徒歩13分
[URL]https://fukui-itsuki.com/
造り手が減りつつある、サバのなれずしを居酒屋で
サバ郷土料理が充実しまくりの福井県。ジェンヌがぜひとも味わっていただきたいのが「サバのなれずし」だ。基本は、サバと米、麹などとともに漬け込んだもので、福井県内では、おもに山間部に位置する勝山市、若狭地方で作られている。
ここで最初に説明しておきたいことがある。なれずし、というと「ふなずし」的なものを想像する人が多いかと思うが別モノ! におい、ありません。くさみ、ありません。酒の友として好む方もいますが「女子」と「子ども」にファン多数!
そんなサバのなれずしを福井市内で提供しているのが、居酒屋『おいで康』。
福井県の新鮮な魚を使った料理をメインとしたお店で、店主の嶋崎康志さんが自ら漬け込んだ「さばのなれずし」を堪能できる。
サバが大好きな嶋崎さん。自分でもおいしいサバのなれずしが作れたら……と思い、チャレンジをはじめた。じつは、いま、サバのなれずしを作る人はどんどん少なくなっている。
そんな現状から、「貴重な食文化が失われるのは残念だし、さみしいなあと思ったんです」と嶋崎さん。
サバのなれずしは、地域によって製造スタイルが異なる。若狭地方では、へしこにしてから漬け込むが、嶋崎さんの基本は勝山流。
まず国産のサバを1週間ほど塩漬けしてから、水と酢で洗う。次に米麹、県産コシヒカリ、そして、刻んだショウガ、昆布、にんじんとともに桶にいれて低温で、1か月ほど漬け込み発酵させる。
「塩の加減で発酵の度合いが変わりますし、なかなか思うような仕上がりにならなくて大変でした」と嶋崎さん。それでもあきらめることなく、試行錯誤を重ねて3年がかりで完成。
出来上がったなれずしを食べて、まずおいしい! と大ファンになったのは、6歳になる嶋崎さんのお嬢さんだ。
では、嶋崎さん渾身のなれずしをいただく。
「フレッシュ、マイルド。そして爽やか」!
サバは漬け込まれているのに、食感も残り、酸味をおびて「しめさば」のようなフレッシュさ!
そして発酵の過程で生まれた乳酸菌の効果で、米と麹がヨーグルトのような甘酸っぱい独特のソースになって、サバをまとう。
これは、いうならば「サバの麹マリネ」! 日本酒もさることながら、ジェンヌ的には泡と白ワインが最高のマリアージュ! 一度食べたら、あなたのサバ人生にとって欠かせないものになるはず!
■『おいで康』
[住所]福井県福井市堀ノ宮1-325
[電話番号]0776-28-0828
[営業時間]17時~翌1時
[休み]月(祝日の場合営業)
[交通]えちぜん鉄道日華化学前駅から徒歩5分
福井ならではの定番を、各店舗で独自にアレンジし極めた福井市サバグルメ。これはきっと、脈々と受けつがれた「サバソウル」のなせる業。サバファンを震え上がらせる「魂のサバグルメ」、福井編はまだまだ続きます!
■池田陽子
全日本さば連合会広報担当 サバジェンヌ/薬膳アテンダント
サバを愛する消費者の集まりである「全日本さば連合会」(全さば連)の広報を担当。日本各地のサバ情報の発信、サバ商品のPR、商品開発等を行う。北京中医薬大学日本校を卒業、国際中医薬膳師資格を持ち、薬膳アテンダントとしても活動。水産庁「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」認定メンバー。著書に『サバが好き!~旨すぎる国民的青魚のすべて』(山と渓谷社)、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)など。全さば連HP:http://all38.com/
取材・撮影/池田陽子
画像ギャラリー