ゴルフ漬けの男は、頭が早くパアになる!?
「いつか、こうなるだろうって予感がありました。もちろん別れます。本当にばかばかしいったらありゃしない、もっと真剣に練習しとけばいいのに」(賭けゴルフで会社から自宅まで失ったフェイシャル化粧品会社の社長、H・クーク夫人、メディーナ)
「知りあったころの彼は、そりゃもうゴルフに夢中だったわ。そのうち私がプロになって彼より飛ばすようになると、ゴルフをやめて釣りに転向しちゃったの。男の人って傷つきやすいみたいね」(ジョアン・カーナー)
「被告エリザベート・スミスは、愛人がゴルフに熱中するあまり、自分をまったくかまってくれないと誤解し、就寝中の愛人に対して9番アイアンで十数回も殴りかかった。この襲撃によって愛人は全治1ヵ月の重症を負った。陪審員は全員一致、被告を有罪と認める。ただし、愛人が2ヵ月以上も被告の体にゆび1本触れようとしないのは明らかな背信行為であり、9番アイアンでのショットには十分同情の余地がある」(ノースカロライナ州地方裁判所の記録より)
「イギリスの男が、どれほど女性ゴルファーをバカにしてるか、痛いほどわかったわ。フン、もう二度と来てやらないから!」(全英女子選手権での最終日、入場者が512人と聞いて怒ったアメリカのアマ選手、ヘレン・カールズワイザー)
「ナパ・カリフォルニア女子選手権の初日、バスト96センチのメアリー・レイチェルがノーブラで出場したのは事実です。彼女の写真が新聞に載った翌日、主として男性のギャラリーが3200人ほど押し寄せたのも事実です。ところがその日、理事会から厳重注意された彼女がブラジャーを着用していたため、3日目のギャラリーが激減して合計144人しか入場しなかったのも事実です、はい」(大会事務局の話)
「結婚したての彼ったら、まるでアニマル! なんでも動くものに飛びつく子猫みたいに、ひまさえあれば私に飛びついていたわ。それから3ヵ月後、愛の言葉は囁いてくれても、とりあえず寝るのが先って感じで、妙に寝つきが良くなったの。6ヵ月後には愛の言葉も面倒になったらしく、初めにイビキありき、睡眠は神なり、夢は神と共にあり、の男に変身しちゃったわ。結婚3年目あたりから会話ゼロ、唯一身を乗り出してしゃべることといったらゴルフの話題だけ。3番ホールのティショットがどうしたとか、18番のパットが入れば45が切れたとか。それ以外の亭主ときたら、食卓にあっては仏頂面の石像、居間では新聞と一緒に鋳型で固められた置物、寝室では役立たずの軟体動物と化して20年の歳月がムスッと流れたわけ。
結局、私が結婚相手に選ばれた本当の理由は、私が世にもマレなゴルフ音痴で、彼のゴルフ自慢と言い訳を黙って聞くしかない女だからと、いまごろ気がついたわ。要するに、あの男が必要としたのは炊事と洗濯と掃除が出来る“嘆きの壁”だったのよ」(P・G・ウッドハウス著『Revenge』より)
「他愛のないことを3時間もしゃべり続ける女と、ゴルフの2日前からタマゴを盗まれた親鳥みたいに落ち着かない男、この2種類の人間だけは私には理解できない」(アン・ヘイウッド)
「ゴルフ漬けの人間って、肉体的には頑健かも知れないけど、頭は早くパァになるのよ。近ごろでは物忘れがひどくなって、自分で隠したイースターエッグも探せない状態よ」(リー・トレビノ夫人、クローディア)
(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)
夏坂健
1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。