出張やスポーツ観戦などで広島を訪れた「ついで」に立ち寄れるちょっとした旅のプランを紹介します。美術鑑賞に工場夜景、紙漉(す)き体験……。おとなの“ついで旅”を満喫しよう! 泊まれる美術館「下瀬美術館」でアート、食を楽しむ…
画像ギャラリー出張やスポーツ観戦などで広島を訪れた「ついで」に立ち寄れるちょっとした旅のプランを紹介します。美術鑑賞に工場夜景、紙漉(す)き体験……。おとなの“ついで旅”を満喫しよう!
泊まれる美術館「下瀬美術館」でアート、食を楽しむ
なにかに熱中し、新しい扉を開く“おとなのサマーキャンプ”が新鮮だ。出張やスポーツ観戦など、広島県を訪れたときに「ついで」に訪れたくなるスポットも次々とオープンしている。シーカヤックで宮島まで漕ぐ、高台まで登っての夜景コンビナートの撮影など、夏の大冒険にふさわしいアクティビティや、伝統的な紙漉き工房を支えるプロジェクトも。広島近郊には自分と向き合い、新しい扉を開くようなコンテンツが詰まっている!
まずは2023年3月にオープンしたばかりの大竹町の「下瀬(しもせ)美術館」へ。“アートの中でアートを観る。”という滞在型の美術館として今、話題だ。世界的建築家の坂茂(ばん・しげる)が設計した海に浮かぶ可動展示室や、木材をふんだんに使用したエントランス棟の大空間は圧巻!
空間そのものが作品でもあるのだ。個人によるコレクションを展示しているので、雛人形や日本画、仏画家のアンリ・マティス(1869~1954年)などの名画から現代アートまで、異なる分野の作品が並んでも、どこか調和しているように感じるのが面白い。
また、仏ガラス工芸家のエミール・ガレ(1846~1904年)のコレクションも充実し、植物学者でもあったガレの作品に登場する草花を植栽した庭園も。敷地内には坂茂の名作別荘が並び、それぞれに宿泊することができる。
ヴィラは水辺に並ぶキールステック(特徴的な断面を持つオーストリアの木造素材)の家、木立の中に建つ壁のない家や紙の家、ダブルルーフの家など今までに坂茂が設計した名作建築を再現。その中で暮らすことで作品をより深く感じられる。
宿泊代には、美術館の入館料や食事、ヴィラ内のドリンクや空港や駅からの送迎代も含まれる。レストランでは、地元の食材をふんだんに盛り込んだ軽やかなフレンチも堪能。ちなみにこのレストランは宿泊者のラウンジとしても機能している。瀬戸内海を一望でき、左手には厳島というロケーションだ。
大竹市では紙漉き体験、工場夜景なども体感
広島県の西、山口県との境にある下瀬美術館周辺には広島ならではの美に触れるスポットが点在している。
「大竹コンビナート」は夜を彩る工場夜景でも有名。日本製紙、三菱ケミカルなど世界規模の企業の工場が集まっている日本初の石油化学コンビナートなのだ。日が落ちると沿岸一帯が光り輝き、化学会社のダイセルの工場など目の前で鑑賞できる撮影スポットも。
ぜひトライして欲しいのが亀居城跡にある亀居公園まで登り、見下ろす夜景の撮影体験。車では登りにくい遊歩道で、かつ暗い山道なので懐中電灯はマストで、なかにはヘッドライトをつけて上る人も。汗を流した分、宝石を散りばめたような絶景に心が震えるだろう。全国的にも珍しい、山の上から見下ろす夜景コンビナートの撮影スポットとして知られている。
下瀬美術館から車で10分ほどの場所にある「おおたけ手すき和紙の里」もユニークだ。気軽に紙漉き体験ができる施設なのだが、自家栽培のコウゾの栽培、加工、紙漉きまで、保存会が一貫して請け負っている。炎天下でのコウゾの芽かき、刈り取りなどボランティアを募り、保存会の一員として作業し、紙すきの工程の一環に貢献できる。なかには年間を通して、季節ごとに訪れ、このプロジェクトを支えている人もいるそう。
駅前に突如、人工ビーチが!冒険を支えるモンベルのショップも
広島駅からJR呉線で6駅、水尻の駅前には心地よいビーチが。この「ベイサイドビーチ坂」は実は人工ビーチ。国道31号沿いに1200mの砂浜が続く。更衣室や屋外シャワー、510台分の駐車場など、海水浴ビーチとして必要な機能を備え、広島市内の人気店、MABUIのビーチレストランもオープン。レストランの2階には瀬戸内海を見渡せるテレワークスペースも。作業をしつつ、ビーチテニスやSUP(サップ)などにチャレンジすることもできるのだ。海水浴シーズンが終わるころにはシーカヤックで近くの島まで漕ぐ冒険も。メバルやキス、カレイなどが釣れるフィッシングスポットでもある。
そしてこれらのアクティビティをサポートしてくれるのがモンベルのショップ。モンベルで国内唯一ビーチにあるベイサイドビーチ坂店ではスイムウエアやライフジャケットなどのアイテムやシーカヤックなども販売。インストラクターが指導するカヤック体験なども開催している。自転車もレンタルできるので、フェリーを利用し、近くの島まで渡ってみるのもいいだろう。登山やキャンプ用品が充実したアウトドアブランドだけに、今後は背後の山へのトレッキングツアーなども構想中。アウトドアスポーツの拠点となるショップだ。
海田町(かいたちょう)には西国街道の宿場町として栄えた江戸中期の建築物を保存した「旧千葉家住宅」や、アムステルダムオリンピック(1928年)の三段跳びで優勝し、日本人初のオリンピック金メダリストとなった織田幹雄(1905~98年)の功績をたたえる「織田幹雄記念館」など見どころも多い。
熊野町の筆の里工房で世界で1本のマイ筆づくり体験
海田町のすぐ南西に位置する熊野町は、国内生産量が全国一の筆の里。資料館「筆の里工房」では書道用や絵画、そしてメイク用の美容筆など、さまざまな筆文化の展示が。長さ3.7mで200頭分の馬のしっぽの毛でつくられた世界最大の筆は記念写真スポット。工房では伝統工芸士が筆をつくる工程を見学し、作業の一環に参加できるなど、体験型のミュージアムだ。筆づくり体験の参加費は3500円で、1週間前までに予約すれば、筆の軸に希望者には名前を彫刻してくれる。世界で1本のオリジナル筆を製作できるのだ。職人気分で作務衣を着て作業できるのも楽しい。
写経や大きな筆で文字を書く大書などの体験イベントも充実。ぜひ参加して欲しいのが、土日祝日に開催され、30分以内なら無料の、美文字ワンポイントアドバイスだ。冠婚葬祭など、毛筆で自分の名前を書く機会が年を重ねるごとに増え、ちょっとコンプレックスを感じていた。書道の師範が美文字職人として、美しいバランスで書くコツを指導してくれる。ちょっと意識するだけで先生の書いたお手本に近づく。これはうれしい。自宅でも練習を続けようと、館内のショップで書道用の筆を購入した。自分の名前を自信をもって書けるようになる。これもおとなのサマーキャンプの成果だ。
広島駅からすこし離れたスポットで美に触れ、新しい自分に出会う体験。出張などの「ついで旅」として足をのばしてみよう。
文・写真/間庭典子
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