都電荒川線を歩いて気づいた「古い」と「レトロ」の違い
坂道を登りながらこう考えた。「古い」と「レトロ」の違いはどこにあるのだろう、と。ここ数年、昭和のノスタルジーを感じさせるモノやコトが若い世代から「昭和レトロ」と呼ばれウケているようだ。
最近じゃ「平成レトロ」なんて言葉もあるし平成生まれの自分も古い人間になりつつあるのを感じるが、都電荒川線沿線をうろついているとどうやら「古い」からといって「レトロ」なわけでもないらしいことが見えてきた。
荒川線の沿線には「昭和レトロ」を感じさせる風景が多い。それもそのはず。都電荒川線は都内で唯一残る路面電車であり、都電は自動車が普及する前の東京で都民の足として活躍していた。
昭和18年のピーク時には1日の利用者数が約193万人にもなったそうで、昭和の人々の暮らしを支えた都電のそばには必然、昭和の香りが色濃く残っている。
たとえば三ノ輪橋停留所近くの「ジョイフル三ノ輪」がそうだ。線路に沿って南北に伸びるアーケード商店街には昔ながらの個人商店が並び、地元のお母さん方がチャリンコで闊歩する。パン屋に八百屋、米屋に文房具店、理容室まで。近隣住民のニーズを一手に引き受ける通りは雑多で、ちょっと煤ぼけていて、どこか懐かしい。
一方、沿線を歩いていると「おっ」と目を引く昭和な店構えでも「レトロ」と称していいのか迷うものもあった。かつて店だった建物はシャッターを閉じていて、「古い」姿をとどめているだけに見えた。どうにも寂しい風景だったがそう感じる理由は単純で、人気(ひとけ)がないからだ。
そういえば本記事でご紹介した「レトロ」スポットはどれも、その場所を愛する人たちの姿があった。店の店主もそうだし、日頃から通う常連客やウワサを聞きつけやってくるご新規さんもそうだ。当然、古い建物を手入れするのも店を続けるのも手間がかかる。
それでも未来に残そうという人の意思があるから「レトロ」は今に継承されているのかもしれない。「レトロ」たらしめるのは人なり。なーんて大袈裟に考えてみたけど、ノスタルジックな荒川線沿線は歩くだけで単純に楽しい。涼しくなったら荒川線で出かけよう。
撮影/石井明和、取材/藤沢緑彩
※2023年10月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。