千葉・柏にある「青山ブックセンター道の駅しょうなん支店」って何?店長が厳選した400冊&巨大な「てんと」でアートな世界に浸る

東京都内から車で1時間弱、千葉県北西部、柏市と我孫子市にまたがる手賀沼の畔に建つ道の駅「しょうなん」は、2年前のリニューアル後、農産物直売所の中に青山ブックセンター本店店長による400冊もの選書コーナーが設けられ、ユニー…

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東京都内から車で1時間弱、千葉県北西部、柏市と我孫子市にまたがる手賀沼の畔に建つ道の駅「しょうなん」は、2年前のリニューアル後、農産物直売所の中に青山ブックセンター本店店長による400冊もの選書コーナーが設けられ、ユニークな道の駅として、話題を集めています。選書が置かれた建物は、自然に溶け込んだアートな空間として見応え十分、新しい発見に溢れています。

「しょうなん」の意味は???

約4.8 万平方メートルの敷地が広がる道の駅「しょうなん」は、午前9時の開店と同時に、400台規模の駐車場がほぼ満車になるほど客足が絶えません。そもそも、柏市内にあるのになぜ、神奈川県の観光エリア「湘南」を連想させる「しょうなん」の名称がついているのか?

実は、「しょうなん」が2001年にオープンした時に所在していた沼南町(2005年、柏市と合併)に由来しているからです。当時から、地元の新鮮野菜を扱う直売所やレストランの人気は高く、千葉県有数の道の駅として知られていました。

2021年12月にリニューアルオープン、棚20メートルに本がズラリ

2021年12月、農産物直売所「知産知消マルシェ」等の入った「てんと」が新設され、リニューアルオープン。中でも、数多くの農産物や加工品等を扱うマルシェ内の奥、最上段の棚20メートルにズラリと並んだ書籍コーナーは、「直売所の中に青山ブックセンターがある」と話題になりました。

道の駅「しょうなん」に新設された「てんと」は、東西南北からのアプローチに対して、正面となるように造られている。ビニールハウスを思わせる外観は、巨大ながら手賀沼の農業地域にも馴染んでいる

その名も「青山ブックセンター道の駅しょうなん支店」。アート関係や洋書といった個性的な品揃えに定評のある東京・青山の人気書店「青山ブックセンター」(ABC)本店(東京都港区)の山下優店長が、「しょうなん」のためにセレクトした約300タイトル400冊が置かれています。

レアな書籍、知的好奇心をくすぐられるタイトル

書籍は、マルシェで販売している食品や付近の手賀沼に関連した「身体」「食」「自然植物」「発酵」の4つのテーマに沿った内容に厳選されています。農産物にまつわる料理本から淡水魚の飼育法や発酵文化の歴史、心理学に関するものなど、知的好奇心をくすぐられるタイトルばかり。

ふだん書店では見つけにくい、手に取らないようなレアな書籍が多く、つい手が伸びます。書籍は年に数回入れ替わる予定なので、訪れるたびに新たな本に出会える楽しみもあります。

「てんと」内にある「知産知消マルシェ」にある「青山ブックセンター道の駅しょうなん支店」。本店店長のセレクト本400冊は定期的に入れ替えられ、いつ来ても興味深い

青山ブックセンターの誘致で「農」と「知」を結びつける

最近では、道の駅の敷地内に別棟で書店があったりもしますが、こちらはマルシェの中、20メートルにわたって並べられた柏市のふるさと納税謝礼品や千葉県の名産品と一緒のレイアウトが斬新です。

駅長の木村美穂さんによると、ABCの道の駅への出店は「全国初なのか断言できませんが、珍しいのではないでしょうか」とのこと。

ABCが置かれた「知産知消マルシェ」のコンセプトである「商品を購入するだけでなく、(商品になるまでの)背景を知り、学びや気づきを得てほしい」に合わせ、厳選本を取り扱うコーナーを設けたと木村駅長は話します。

哲学の入門書から料理本まで、レアな本も多く揃っている。書店と違って、ふだん自分ではなかなか見つけにくい本に出会えるチャンス

さらに「しょうなん」のリニューアルに携わったクリエイティブ・ディレクターの鎌田順也氏は、公式HPの中で、「『知産知消マルシェ』と名づけた直売所は、地域の食を農家の想いや地域の歴史など、様々なストーリーと一緒に楽しんでもらいたいという考えから、『地』を『知』に置き換え、青山ブックセンターを誘致するなどして、農と知を結びつける試みを行いました」と述べています。

ABC支店は「お客さんから大変好評で、『自分では見つけることができないようなセンスの良い、通な選書』」(木村駅長)との声が多く寄せられていると言います。実際、筆者も訪れる度に月に少なくとも2、3冊購入するほか、熱心に本を手に取る老若男女の姿をよく見かけます。

まるで美術館!? 巨大な「てんと」

道の駅「しょうなん」の新たなシンボルとなったのが、大きな三角屋根が連なる開放的な形状がひと際目を引く新設棟「てんと」。

敷地内にあったイチゴを栽培している農業用ビニールハウスを彷彿させる三角屋根は10メートルほどの高さを誇り、緩急の勾配をつけて連なるさまは、風格がありながらも、農業が盛んな周りの景色に馴染んでいます。

突き出た大きなひさしが印象的な大屋根ひろばからは、手賀沼が見渡せる。週末のイベントには大勢の人で賑わう

エントランスゲートは、柏市や我孫子市、沼南地域どこからアプローチしても正面に見えるように設計されており、まさに巨大なテントのよう。「鉄と赤土色の塗装の天井で構成して設計」されているそうです。ゲート前の半屋外空間の大屋根ひろばからは、風光明媚な手賀沼が見渡せ、週末にはさまざまなイベントが行われており、多くの家族連れで賑わいます。

「てんと」を手掛けたのは、「ナスカ一級建築士事務所(NASCA)」(東京都新宿区)に所属する桔川卓也氏。事務所のホームページ(HP)によると、桔川氏が設計担当したプロジェクトの中には、早稲田大学西早稲田キャンパスや廃校の小学校をリノベーションした道の駅「保田小学校」(千葉県鋸南町)など話題となった数多くの建築が列挙されています。

「てんと」前には芝生が広がり、澄んだ青空と手賀沼とのコントラストが美しく心地良い

「てんと」は2022年、千葉県内の道の駅として初のグッドデザイン賞を受賞。木村駅長によると、「リニューアル後、新たに建築関係の方や学生ら若者の来場も増えたと実感しています。『まるで美術館のようだ』といったお声も多く寄せられています」。

1年で「86万人」が「128万人」に大幅アップ

実際、来客数を調べると令和3年の86万人から令和4年には128万人へとおよそ1.5倍に急増しています(千葉県商工労働部観光企画課および道の駅「しょうなん」調べ)。リニューアルによって、新たな客層を獲得したことが分かります。

センスの良い書籍も扱うマルシェ、デザイン性に富んだ建築などで進化し続ける道の駅のモデルとして、千葉の「しょうなん」もまた「湘南」同様、今後、その名が知れ渡るようになるかもしれません。

地元柏産の新鮮野菜や食材にこだわったオリジナル料理が揃うレストラン棟「つばさ」も見逃せない。写真は、イタリアンレストラン「Shanty」の「トマト無水カレー」(1000円)と「蒸し鶏と柏野菜のサラダセット」(1000円)

文・写真/中島幸恵

道の駅「しょうなん」

【住所】千葉県柏市箕輪新田59-2
【営業時間】9時~18時※施設により異なる
【定休日】1月1日~1月4日
【電話】04-7190-1131(管理事務所)
【交通】常磐自動車道柏IC から30分
【公式HP】https://www.michinoeki-shonan.jp/

「道の駅」

一般道路に設置された安全で快適に道路を利用するための道路交通環境の提供と、地域の賑わい創出を目的とした施設。沿道地域の特産品などを扱うほか、歴史や暮らしを学べる博物館や体験工房を併設するなど、24時間無料の駐車場やトイレなどの休憩場所にとどまらず、それぞれ趣向を凝らしたサービスを通して観光振興や地域活性につなげている。災害時の広域的な防災拠点としての役割も担う。国土交通省によると、市町村またはそれに代わる公的な団体が設置、各首長からの申請により国交省が登録すると、「道の駅」として名乗ることができる。1993年4月、全国で初めて103駅でスタート。30周年を迎えた2023年の時点で、1209駅が登録されている。

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