小さな“蕎麦旅”のススメ厳選5軒 おいしい蕎麦を求めて電車でクルマで出かけよう! 

『そば処 あしがら翁』の「ざる(落花生つゆ)」1500円。地域の特産品・落花生のペーストと粉末をツユに加えて甘く香ばしい風味が立つ

電車に揺られ、あるいはクルマに乗って出かける先は、おいしい蕎麦が待つお店。観光地でなくとも、その一枚による至福は何物にも代えがたい充実した時間をもたらしてくれます。小さな蕎麦旅、いざ! 広がる田園風景、研ぎ澄まされた一枚…

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電車に揺られ、あるいはクルマに乗って出かける先は、おいしい蕎麦が待つお店。観光地でなくとも、その一枚による至福は何物にも代えがたい充実した時間をもたらしてくれます。小さな蕎麦旅、いざ!

広がる田園風景、研ぎ澄まされた一枚『そば処 あしがら翁』@神奈川県開成町

周囲には他に飲食店などない、のどかな田園風景の中にその店はポツンと佇んでいた。遠くに見えるのは丹沢の山々の連なり。「いいでしょう、この眺め」ご主人の皆川昌彦さんは清々しい笑顔でそう言った。

『そば処 あしがら翁』周辺の風景。シーズン中は近くに河津桜のスポットも

蕎麦の道に入ったのは、少し遅咲きの31歳。縁あって当時、山梨県・長坂にあった『翁』で修業を開始した。そう、この店名にピンときた読者もいるはず。名人と謳われる高橋邦弘氏の店だ。ここで5年間、みっちり技術を叩き込まれたのち、箱根湯本や東京・広尾の店を経て、平成19年にこの地に住居兼店舗を構えた。

場所を選ぶ際、決め手になったのが第1にこの風景。そして第2が蕎麦の味を左右する水だという。「下見に来た時、この地域の水道水を飲んでみたら直感的にいい水だな、と感じました。役場に行ってよくよく聞いてみたら、富士山や箱根の深層地下水を利用していたんです」。

そんな水で打つ皆川さんの蕎麦を表現するならば“たおやか”という言葉が頭に浮かぶ。

ざる 970円

『そば処 あしがら翁』ざる 970円 その時々で農家から仕入れる蕎麦の実を石臼で極微粉に挽いて打つ。なめらかなのど越しと、もっちり奥ゆかしいコシだ。かえしとダシが調和したツユがその甘みと香りを膨らませる

しっとり艶を浴びたそれをひと箸たぐれば麺の肌は絹のようななめらかさで唇や舌を撫でていく。コシもモチモチと穏やかな表情。でもその中心にほんのひと筋残した芯にはコリっと鮮やかな歯応えがある。

それを本枯節のダシを効かせた旨口のツユにつければ、返ってきたのは二八とは思えぬ深い香り。見事なまでに研ぎ澄まされた蕎麦だ。とはいえ、皆川さんや奥様の柔和な人柄もあって堅苦しさはみじんもない。のんびり蕎麦に浸り景色に抱かれる、きっとそれは最高の休日だ。

『そば処 あしがら翁』

[住所]神奈川県足柄上郡開成町延沢2508-2
[電話]0465-83-5806
[営業時間]11時半~15時(蕎麦が無くなり次第終了)
[休日]火・水
[交通]小田急小田原線新松田駅北口から徒歩26分(箱根登山バス関本行き約7分)

撮影/貝塚隆、取材/菜々山いく子

里山に実現した理想の地へ『手打蕎麦 ゆい』@千葉県大多喜町

時の積み重ね以外に生み出すことのできない黒く光る梁、そして欄間。都会を遠く離れた里山だけに許された静寂と凛とした空気。千葉市内で20年以上蕎麦店を営んでいた片岡政博さんが、築130年を超えるこの古民家に惚れ、『手打蕎麦ゆい』の営業を始めたのは、ひとえに自分の理想とする蕎麦を、理想の環境で打ち、そして提供したかったから。

『手打蕎麦 ゆい』

「いいものを出せば、お客さんはくる」そう確信しての決断であったが、いやいや、ちょっとやそっとのいいものでは、客が来るとは思えない辺鄙な土地。しかし今。『ゆい』の蕎麦をたぐりに足を運ぶ客は後を絶たない。そう。いいものを凌駕する“とんでもなくいいもの”が、この地に待っているからだ。

辛味大根せいろ 1100円

『手打蕎麦 ゆい』辛味大根せいろ 1100円 自家栽培の辛味大根の心地よい刺激よ

産地は北海道から鹿児島まで、その時、最上の粉を石臼自家製粉して打った十割蕎麦。地元朝採れ野菜の天ぷら。自家栽培の辛味大根。この11月からは待望の自然薯も登場する。店主の理想は、いただく我々にとっても、文字通り鄙にも稀な理想の蕎麦であった。

『手打蕎麦 ゆい』

[住所]千葉県大多喜町小田代(こただい)391
[電話]0470-85-0885
[営業時間]11時~13時半頃
[休日]水・木(不定休あり、HPで要確認)
[交通]小湊鉄道養老渓谷駅から栗又の滝行きバスで小田代下車徒歩1分
[HP]https://yuisoba.com

撮影/谷内啓樹、取材/カーツさとう

東京からほど近い蕎麦の里で味わう土地の蕎麦『手打蕎麦 ぐらの』@埼玉県鶴瀬

優秀な蕎麦産地として、多くの蕎麦店主から熱い眼差しを受けている埼玉県・三芳町。ここでは90年代から突如として蕎麦の栽培が始まった。とある農家が在来の蕎麦を育て始め、試行錯誤を繰り返して旨いと言われるまでになったのだ。

『手打蕎麦 ぐらの』三芳在来の蕎麦の実。見るからに粒が大きい

『ぐらの』はその三芳町からすぐの場所にある。店主の福原篤さんは蕎麦屋の2代目で、店を継いだ2002年に石臼挽き自家製粉、手打ちに変えた。そして「地元にこんなにおいしい蕎麦があることをもっと広めたい」と、主に三芳町産蕎麦を使う。

田舎せいろ 1122円

『手打蕎麦 ぐらの』田舎せいろ 1122円 挽きぐるみなので蕎麦の香りと旨みが濃厚

「色も香りもよく、何より粘りがあってコシが強い」と三芳在来の魅力を教えてくれた。福原さんは畑の手伝いにも出かけ、その魅力を引き出そうと研究を重ねてきた。近くの畑を見に行ってみると、青空の下にワイルドな蕎麦畑が広がっていた。「一列に撒いているので、風が抜けていい蕎麦に育ちます」と福原さん。

車で5分ほどの距離にある三芳町の蕎麦畑

がっしりとした太打ちの「田舎せいろ」は挽きぐるみの二八だ。本節のカツオが香るやさしいツユが蕎麦の甘みをグッと引き立てる。プロが愛する三芳在来の畑を眺め、蕎麦を手繰る。これ、蕎麦好きにはたまらないプチ旅だ。

『手打蕎麦 ぐらの』ログハウスのような開放的な空間も旅気分を盛り上げる。テラス席は犬もOK

[住所]埼玉県ふじみ野市大井816-4
[電話]049-264-0337
[営業時間]11時~15時(14時半LO)
[休日]火・水
[交通]東武東上線鶴瀬駅またはふじみ野駅から車で9分

撮影/貝塚隆、取材/岡本ジュン

隠れた蕎麦処にのど越し抜群の田舎蕎麦あり『そば福』@奥秩父

ハードルが高いほど燃えるものである。秩父の山奥で見つけたこの蕎麦屋はまさに険しいハードルの向こうのご褒美だ。西武池袋駅から特急ラビューに乗ること約1時間20分。流れる景色の合間に目に入る川が透き通ってきたらもうそこは秩父だ。そこからさらに秩父の奥へ奥へと行くと、山に囲まれた小さな平家に辿り着く。

こんな辺鄙なところになぜ蕎麦屋がと思われるかもしれないが、周辺では昔から蕎麦の実が採れ、家庭で蕎麦を打っていたのだそう。同店の蕎麦は昔ながらの製法を引き継ぎ、手打で少し不揃い。そしてざらりとした食感のある六四の田舎蕎麦で提供する。なのに、のど越しのなんとなめらかなこと!

くるみ天ざる 1450円

『そば福』ツユはたっぷりのクルミをすり潰しキレのある蕎麦ツユで溶いた自家製。天ぷらはエビとホタテと三つ葉のかき揚げ、海苔と大和芋の天ぷら、えのき、シシトウ、大葉、かぼちゃにアスパラの7種類

しなやかなコシを歯に伝えながらつるりと腹に滑り落ちる。聞けば、粉を練る際に沸騰したお湯を使うことで粉と水分がよく馴染み、なめらかな蕎麦に仕上がるのだという。

東京の和食店で修業を積んだ店主が揚げる天ぷらだって負けてない。薄めの衣を短時間でさっくり揚げるので食感が軽く、7種もあるのに気付けば完食。はるばる来たのだからもっと味わえばよかった!とは思いつつ、次もまた、あっという間に食べてしまうんだろうなぁ。

『そば福』

[住所]埼玉県秩父市荒川贄川1311
[電話]0494-54-1473
[営業時間]火~木:11時半~15時(売り切れ次第終了)金・土:11時半~15時、17時~21時、日・祝:17時~21時(予約がある場合のみ)
[休日]月
[交通]秩父鉄道三峰口駅からタクシーで6分、もしくは小鹿町町営バス三峰口駅から古池下車で徒歩9分

撮影/鵜澤昭彦、取材/藤沢緑彩

時を忘れさせる風雅な蕎麦懐石と古民家の風情 『惠土(えど)』@葉山

1品目の蕎麦豆腐からして心奪われた。大根おろしの下に角切りのそれがお宝のようにザックザク。そして八寸。風雅な味はもう永遠に酒が飲めそうだ。ほくそ笑んでいると古民家の庭から秋の虫がリンリンリン……ココはどこ、私はダレ?失礼、のっけから恍惚としてしまいました。

時を1時間半前に戻そう。東京から電車で逗子駅へ、そこからバスで約10分。美しい海岸線を目にすればさっきまでの喧噪が嘘のよう。そう、ここはリゾート地としても人気の葉山。で、冒頭の続きである。

メニューは蕎麦懐石のみ。8品からなる構成は小さな驚きの連続だ。「華美でなく素朴なおいしさを心掛けています」とは店主の惠土靖さん。閑静な町に店を構えて5年。蕎麦と共に旬の味を楽しませる。その蕎麦がまたすごかった。

蕎麦懐石 お昼の店主お任せコース 6600円(内容は季節や仕入れで変わる)

『惠土』の「蕎麦懐石 お昼の店主お任せコース」(内容は季節や仕入れで変わる)6600円の一部。(奥)手挽きせいろ (手前)天然ナラタケのかけ蕎麦 基本的に昼は温・冷の2種。もり汁は2週間寝かせ味を馴染ませる。夜(11000円)は昼の構成をベースに平打ちが加わるなど品数が変わる

1年寝かせた「常陸秋そば」を石臼で何と手挽き。それは細く長くたおやかで、挽きぐるみの力強い穀物香、甘い余韻。手挽きにするといい意味で粉が均一にならず、風味と食感に微妙な変化が出るのだそう。

一途な姿勢の味はもとより、妻の智子さんの気さくなおもてなしもこの店の魅力。夫妻合作の「惠土」は、葉山を目指す理由となる名店だ。

『惠土(えど)』

[住所]神奈川県三浦郡葉山町堀内870-7
[電話]046-876-3625
[営業時間]12時~15時、18時~22時
[休日]木・金
[交通]JR逗子駅から京浜急行バス(海岸回り)で約10分、元町バス停下車徒歩5分

撮影/西崎進也、取材/肥田木奈々

2023年12月号

おとなの週末2024年1月号は「東京駅を食べ尽くす」

2024年1月号

※2023年12月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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