ビーバーよろしく机に齧りつき
1981年10月29日、香港の九竜市に住む6人の若者が、ギネスブックを意識した珍挙をおっぱじめた。縦2.2メートル、横1.5メートル、板厚3.5センチ、高さ70センチの木製の机に、一切道具を使わず、頼るは歯だけという申し合わせでかぶりついたのだ。
6人の果敢なビーバーたちは、顔をまっ赤にして机の四すみに歯を立てた。ある者は、ねずみが柱を齧るように机の脚部にくらいついた。
カリカリ、コリコリ、ときには首を左右に振って木の繊維を食いちぎり、嚙み砕き、ついに6時間と58分後、立派だった机も割り箸の山と変わり果てたのである。
連中の口許はトゲと切り傷でザクロのようになっていたと『ホンコン・タイムズ』は報じている。
ニガ手どころか、やっぱり四ッ足の机も食べられてしまった!
(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)
夏坂健
1934(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。
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