倹約家の副知事が「代用乳製品」として発明
それによると、安徽省池州府の副知事に時戢という倹約家がいた。この人は豆を材料にした「代用乳製品」を作るすべを心得、一度それをご馳走になった者が、
「淡々と冷謐で、気品に満ちた逸品!」
と口々に絶賛するので、その豆製品は「幻の珍味」と騒がれた。
公僕のくせに利にさとかった時戢は、市中に豆腐を出荷して、かわりに肉や魚を得ることをはじめた。
油っこいものばかり食べていれば、さっぱりしたものが欲しくなるのは道理だから、豆腐は爆発的な人気を博するようになる。
そのころはまだ名前がなかったので、人々は豆腐を「副知事羊」と呼んでいた。
正式に豆腐と呼ばれだしたのは11世紀になってからのこと。思えば、ゆうべ食べた冷や奴には、およそ1000年の歴史があったわけである。
(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)
夏坂健
1934(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。
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