“かつ”といったらサクッとジューシーなとんかつ?白飯と渾然一体となったかつ丼?カツカレー?いいえ、“かつ”といったら酒の友「かつ煮」。特に寒い今時分は、アツアツをハフハフやったら思わず酒が進むのなんの、悪魔のおつまみです…
画像ギャラリー“かつ”といったらサクッとジューシーなとんかつ?白飯と渾然一体となったかつ丼?カツカレー?いいえ、“かつ”といったら酒の友「かつ煮」。特に寒い今時分は、アツアツをハフハフやったら思わず酒が進むのなんの、悪魔のおつまみです。
天ぬきよりもかつ煮 至高の蕎麦前メニュー
豚肉を揚げたとんかつが第一形態なら、それを割り下で煮て卵でとじるかつ煮は第二形態。さらに、それをご飯にオンしたかつ丼は第三形態である。この第二形態がないがしろにされているのがこの国の現状です。
しかし、だからこそ品書きに「かつ煮」を見つけると、「ああ、店主は酒呑みの心をよくお分かりで」とニンマリ。そう、かつ煮はどんなお酒もバッチリ受け止めてくれる最高の肴。おつまみエリートなのです。
かつ煮とのうれしい出逢いは、蕎麦屋でしばしば生まれます。かつ丼や親子丼も出すような昔ながらの町の蕎麦屋が狙い目です。
大塚の『小倉庵』は本格的な手打ち蕎麦もさることながら、カレーライスやかつ丼もおいしい気さくな雰囲気の蕎麦屋。
メニューの「蕎麦前」の欄には、板わさや焼き味噌などいかにも蕎麦屋らしい酒肴に混じってありましたよ、かつ煮。たっぷりの卵でとじられてのご登場です。
山かけ蕎麦よろしくさっと振りかけられた青海苔が、なんともいい景色をつくっています。鰹ダシがしっかり効いた割り下はさすが蕎麦屋。
かつの衣が割り下と一緒に煮込まれた玉ねぎの甘みをたっぷり吸っているから、口の中でじゅんわりと旨みが広がります。
大塚『小倉庵』カツ煮 850円
合わせる酒は「大七 生もと」の熱燗。かつ一片につきお猪口一杯。玉子部分をつつきながらさらに数杯。
蕎麦前の醍醐味である天ぬき(天ぷら蕎麦の蕎麦抜き)もいいが、かつ煮は天ぬきと違ってゆっくり味わってもグズグズにならない点も優秀です。
居酒屋での暖機運転はかつ煮とビールで
“食堂”という文字を“さかば”と読んでしまうのは私だけでしょうか。いろんなおかずで一杯やれる「食堂呑み」は、ユネスコ無形文化遺産に登録されるのも時間の問題かと。
田端の『動坂食堂』も、食堂呑みにうってつけの一軒です。
田端『動坂食堂』ロースカツ煮 700円
なんといっても、かつ煮があるところが、ウェルカム呑兵衛な証拠。ニンジンと玉ねぎのスライスと共に煮込まれた厚切りかつのお目見えです。
「白鶴」のワンカップがかつ煮の旨みを増幅し、しらすおろしで一旦リセット。かつ煮→白鶴→しらすおろしの無限ループに入った私には、一筋の光が差していたことでしょう。
江戸川橋の『居酒屋 いずみ』には、豊富な海鮮メニューの中にかつ煮が隠れていました。
刺身で日本酒をやる前に、かつ煮と瓶ビールで暖機運転(死語)を行います。料理の提供が早い同店ですが、かつ煮はさにあらず。それもそのはず、衣をつけてフライにするだけでも手間なのに、それを煮るのだから。サックサクの揚げたてを敢えてジュワジュワに仕上げる背徳的な妙味に、そりゃビールも進むというものです。
江戸川橋『居酒屋 いずみ』カツ煮 820円
本八幡の『とんかつ ばんぶー』は千葉県一との呼び声も高いとんかつの名店。かつ丼はないのに、かつ煮はあるのがユニークだと思い、行ってみました。
近所の銭湯でひとっ風呂浴び、呑む準備は万端。さあ、かつ煮を頼んでみましょう……あれ?定食しかありません。かつ煮で一杯やる目論見が、店のピリッとした雰囲気にも気圧されてご飯抜きとかの相談もできずに、そのまま定食でいただくことに。
本八幡『とんかつ ばんぶー』ロースかつ煮定食 1700円
親子鍋のままやってきたかつ煮は、3センチはあろうかという厚切り肉がごろごろ。真ん中の三つ葉の下には、全体の卵とじに加えて半熟卵が隠れています。旨い!濃いめの味付けでご飯と合う!もうこのご飯に乗っけたいくらい……あ、それって第三形態、かつ丼じゃん!
撮影・取材/渡辺高、イラスト/植田まほ子
※2024年3月号発売時点の情報です。
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