“世界一の技術”がおいしいりんごを生む
高橋さんの話は、気候や歴史にも及ぶ。
「日本で一番生産量の多い青森ですけど、気候的には栽培に向いていないんです」
どういうことなのか。「りんごの原産地は、カスピ海の手前、中央アジア。つまり、雨が少ない気候がいい。でも、青森はりんごの産地としては降水量が多いですから」
マイナス要因を補ったのが、剪定の技術だったという。「明治になって、仕事がなくなった武士たちが、りんご栽培に携わりました。苦労と努力を重ね、気候のハンデを技術でカバーした。剪定で味のコントロールができるんです」
剪定は、高品質で、高い収量を確保するための重要な作業。簡単に言えば、余計な枝を間引いたり、切ったり、花芽の数を制限したりすることで、栄養がりんごの樹全体にいきわたるようにすることができる。これが、おいしい「りんご」につながる。高橋さんによると、「今年、おいしくなる果実を1割ほど残して、9割は間引かれました」という。
「後継者不足で、この世界一の技術が失われていく。なくなるのは困るので、この企画(援農プロジェクト)がスタートしたわけです」
シナノスイートの強い甘味
高橋さんは弘前市生まれ。祖父の時代にはすでに「畑があった」という地元で代々続く農家だ。いったん郷里を離れて、東京で学生生活を送り、映像関係の仕事に就いたが、母が亡くなったことで、29歳で戻ってきて家業を継いだ。今回訪れた農園は、実家の農園とは別で、借りたもの。その背景からは、弘前市のりんご農家の担い手不足も透けてみえる。
農園では、高橋さんのご厚意で、収穫したりんごをそのまま味わうことができた。りんごの収穫時期は、8月下旬から11月にかけて。「今年は雨が少ないので最高の出来だと思います。特に、シナノスイートはおすすめです」
複数の種類を試したが、印象に残ったのが、やはりおすすめの品種「シナノスイート」。鮮やかな赤い色が美しい。「スイート」の名前の通り、酸味よりも甘味が勝る。ジューシーで、おいしい。