30年間の貴重な“レガシー”を常時公開へ
33年前から各地のラーメン店誘致に出向いていた私は、各ラーメン店オーナーに、ラーメン店を始めた経緯や、地域でどのように広まっていったのかをその都度聞いてきました。そして、食文化研究家の故・小菅桂子先生の著書『にっぽんラーメン物語―中華ソバはいつどこで生まれたか』(1987年)に登場する老舗ラーメン店の末裔たちへのインタビューや映像の収録、インタビュー内容の裏付け調査などを経て、ラー博で公開(一部は未公開)してきました。
貴重なこれらのインタビュー記録や映像収録データも、30年間の大切な“レガシー”です。ラー博に来ていただければ、これらの記録に常時触れることができる状態にするのが、私の希望です。博物館内でパソコンを使ったアーカイブの閲覧や、数種類の映像を選択して視聴できるような仕組み、時代背景と並列した展示などを考えています。
食文化は伝え残すことが重要です。引き続き進めていかなければならない、ラー博の重要事項でもあります。
この30年間で、ラーメンを自分の好みの味かどうかだけでなく、そのラーメンの生まれた背景、店の歴史、地域の特性、オーナーの人柄など、多方面から見ていただくことに多少は影響を与えることができたのではないかと自負しています。
最終的には、『(仮題)ラーメンの誕生から現在まで』として、100年先にまで残るような本にまとめ、国立国会図書館に収蔵することが、私のラー博人生の集大成と考えています。
30周年企画「あの銘店をもう一度」で知った店主の新たな一面
2年前から実施してきた30周年企画「あの銘店をもう一度」については、何から何まで分かっているつもりのラーメン店オーナーの新たなる一面を見ることができました。そのことに驚き、感動、喜びを感じています。この企画でのエピソードを、いくつかお話します。
まずは1994年創業のメンバーで、このコラムでも幾度となく紹介した東京・目黒「支那そば勝丸」の後藤勝彦さんのことです。
出店前に「3カ月間休まず現場に立つ!」と言われたのですが、出店期間中に80歳を迎える後藤さんが休まず厨房に立つのは正直無理だと思っておりました。しかし、結果的に休まず立たれたのです。
この出来事がその後、出店する店主たちに大きな影響を与えました。
86歳となった福島・喜多方「大安食堂」の遠藤進さん、66歳の札幌「すみれ」の村中伸宜さん、71歳の博多「一風堂」の河原成美さんは、口をそろえて、「後藤さんには負けられない!」と自身を鼓舞し、長時間にわたり厨房に立たれました。後藤さんの行動が導火線となり、長老たち(笑)の心に火が付いたのです。
大先輩たちはとても輝いていました。かっこいいなと、心底憧れました。同時に、以前出店していただいた時も今回みたいにずっと厨房にいてくれたらな~とも思いましたが(笑)。