独自のボール文化にひたれる呑兵衛天国
「控えめに言って最高」と最初に言った人のセンスは賞賛に値するが、こうも多用される今となっては、「感謝しかない」と同じくらい無味乾燥な表現だ。あえて高らかに宣言しよう。堀切は「ちょっと盛って最高」だと。
堀切菖蒲園駅にはこの3年で20回は降り立っている。その目的は飲み歩きだ。駅名の由来となっている江戸時代からの観光名所「堀切菖蒲園」にはまだ行ったことがない。花より団子、いや酒だ。堀切の街はこぢんまりとしていながらも個性的な個人経営の店が密集する呑兵衛タウンだ。
わざわざ飲みに来る左党たちの心を掴んでいるのが、堀切が発祥とされる焼酎ハイボール。焼酎に梅エキス、炭酸を合わせた酒で、昭和20年代から界隈では「とりあえずボール」と注文されるくらいに親しまれている。
ちなみに「ボール」のアクセントは「バール」と同じ。堀切に行ってみたい読者へ、日々のフィールドワークで培った飲み歩き法を指南させていただく。
・レッスン1 『隠れ家 やまさん』で「ボール」を注文してみよう。店主の山田さんは、生まれてから62年間堀切から出たことがないという生粋の堀切人。永ちゃん風にキメているが、陽気で話好きな方なので、堀切のことをいろいろ教えてくれるはず。
・レッスン2 『居酒屋 きよし』で昭和の空気にひたってみよう。堀切の魅力はどこか時代に取り残されたようなノスタルジックな雰囲気。昭和40年創業の同店には、昭和の良き時代の大衆酒場文化がそのままに保存されている。炭酸水の空き瓶は自分の前に並べていくのがこの店のルール。店それぞれに確立された流儀に従う面白さをぜひ体験してほしい。
もつ焼きに焼き肉 肉食飲みがアツい!
・レッスン3 いつも賑う『炭火のかえで』に空席を見つけたら、すかさず滑り込むべし。うら若き女店主は、やはり生まれも育ちも堀切&筋金入りの酒好き。堀切の飲み屋で誰もが知る呑兵衛アイドル、ノンアルだ。そんな言葉はないが、堀切で英才教育を受けた人がどんな飲み屋を営んでいるか、一見の価値あり。
・レッスン5 日本庭園「堀切菖蒲園」へ行ってみよう。見どころの6千株の菖蒲は6月上旬から咲き誇るそうだが、他にも一年中、季節の花が園内を彩っているとのこと。昼は花鳥風月を愉しみ、夜は「まずはボールで」とクールに振る舞える大人が目標だ。
堀切飲みの楽しみは尽きることがない。ちょっと盛って最高なのである。
撮影/橋本真美(やまさん、きよし)、小島昇(かえで)、浅沼ノア(牛将)、取材/渡辺高(やまさん、きよし)、輔老心(かえで、牛将)
※2024年4月号発売時点の情報です。
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